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2015年/短編まとめ

寒色を愛す

作者: 文崎 美生

「何て言うか、全体的に暗いのよね」


「はぁ。でも、性格なので」


のんびりと頷けば「誰が性格の話をしてるのよ!」と怒られてしまう。

軽い冗談なんだけどなぁ。

ぽりぽりと頭を掻きながら、暗い、と評価を下された絵を見る。


こればっかりはどうしようもないんだよな、なんて諦めているところがあるけれど、周りはそんな風に見てくれないらしい。

なんて面倒くさいんだろう。


「元々、暖色って苦手なんですよね」


美術部部長で自分にとって先輩でもあるその人を、横目で見上げれば、大きな深い溜息を吐かれる。

気持ちは分からなくない。

今までにも、何度も何度も受けて来た指摘だ。

それを直してこなかったのは、他でもない私であり、直せるだけの実力がないのも事実。


中学の頃から、使う色は寒色ばかり。

青や緑や黒や白と言った、全体的に綺麗にまとめられる冷たい色合い。

そのせいか暖色が苦手だ。

暖かくて柔らかくまとめられない。

何より色が綺麗に出なくて、全体的に発色が悪くて見れたもんじゃない。


そのことを先輩は分かっている。

実際に描いて見せた時の、あの渋い顔は今でも鮮明に思い出せた。

何でそうなる、とでも言いたげな顔に、私は薄っぺらい苦笑を浮かべることしか出来なかったけれど。


「寒色でまとめると、どうしても全体的に暗くなるじゃないですか。そう言う色ですし。でも、その分暖色には出せない神秘的な美しさがありますし」


「つまり何が言いたい?」


キリッ、と目を釣り上げた先輩が私を見る。

私は髪を乱すように掻きながら、言っていいものかと口の中で言葉を転がした。


「まぁ、つまり、私は寒色が好きです」


結果として、舌の上で転がった言葉は、ポロリと音を立てて出て来てしまった。

当然先輩は顔を顰める。

だから、言うべきか迷っていたのだけれど。


私は顔を顰めた先輩から視線を逸らし、絵を見る。

同じように先程も見たが、相変わらず寒々しい色をしたキャンバスだ。

自分で描いておいてなんだが、ある意味自己主張の激しい絵だと思う。


全体的に使用している色は青。

寒色の中でも好きな色だ。

その青は、真っ白だったはずのキャンバスを、真っ青に染め上げて、また別の色を重ねられている。

ミルフィーユみたいに色を重ねられて完成したそれは、私の作品。

私の子供みたいなものだ。


「絵って性格も出ますし」


仕方ないんですよ、という言葉は飲み込む。

口の中で転がしていたって、飴じゃないから美味しくないし、消えてなくなることはない。

むしろふとした瞬間に溢れ落ちて、先輩の機嫌を更にそこねていくことだろう。


絵を描けるだけで幸せを感じる。

ぶっちゃけた話をすれば、絵を描くこと以外には特に執着などを見せない。

つまりは絵を描ければそれでいいのだ。


絵は性格も出る。

先輩はお母さん気質で、面倒見がいい人だから、私には描けないような暖かくて柔らかい、暖色の生きた絵が描けるのだ。

反して私は、絵以外に興味を示さない、描けるならそれでいい、割り切ったために、寒々しい綺麗としてだけまとめられた絵。

とどのつまりはそう言う事だ。


「……綺麗なんだけどね」


「それはどうも」


ぺこん、と頭を一つ下げる。

曲線を大いに使った今回の絵は、水面のように柔らかな儚い脆さを出した。

兎に角触れたら壊れるような、そんな絵。

それを綺麗と言われて、不服に思うなんてことはないだろう。

むしろ有難い評価だ。


それにしても性格の部分は突っ込まないな、先輩。

気を使って言わないんだろうが、それが一番使っちゃいけない気の回し方な気もする。

ふぅ、と軽く息を吐き出して、制服が汚れないように、としていたエプロンを外す。


「アンタの絵は、海に沈みながら描いてるみたいよね」


それは一体どういう意味か。

そのままの意味で、青い世界を見ながら描いているような作品なのか。

それとも性格を含めて、沈んでいく寂しい一緒に落ちていく作品なのか。


別にどっちでもいいし、もしかしたら先輩は両方の意味で言っているのかも知れない。

カツン、と軽く蹴ってしまった何かに視線を落とせば、内容量が全然減らない赤い絵の具。

寒色になら沈んでいける。

暖色は燃やされそうで、少し、怖い。


拾い上げた赤い絵の具が、その内容量を失うのはいつになるんだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  自分だったら「好きなものは好き」で終わらせてしまいそうです。  しかしこの物語の、もどかしいまでも気づかい合えた光景も良いものに感じました。 [一言]  先輩の意図はともかく『海に沈みな…
[良い点] 創作物には性格が表れます。少なくとも自分は。 それをわかりやすく表すことができていると思います [一言] 暖色にトラウマでもあるんじゃないかってくらい、寒色を好んで使っているのが印象的でし…
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