序章
ここに天鳥船神を武御雷神に副へて遣わしたまひき。ここを持ちて、ふた柱の神、出雲ノ国の伊那佐小濱に降り到りて、十掬劔を抜きて、逆に浪の穂に刺し立て、その劔前に趺み座りてその大国主神に問ひて言ひたまひて曰く
~中略~
その武御名方神、千引の石を手末にささげて来て『誰ぞ我が国に来て忍び忍び物を言うこと此のごとし。然らば力競べをせんと欲す。故に我が先づその御手を取らんと欲す。』と言ひき。故、その御手を取らせたまへば、即ち立氷に執り成し、亦劔刃に取り成しつ。故に惕りて退き居りき。
故に其の建御名方神の手を取らむと欲し、乞ひ歸して取りたまへば、若葦を取るが如く、つかみ批ぎて投げ離ちたまへば、即ち逃げ去にき。
そこで、天鳥船の神を武御雷の神のお供につけて、(大国主の神のもとへ)遣わされましました。こうして、二柱の神は出雲の国の伊那佐の小濱というところに降り立たれました。武御雷の神は十掬劔を抜いて柄のほうを海の絶え間なく動く波に突き刺してその剣先にあぐらをおかきにになり、大国主の神にご質問なさることには
~中略~
その武御名方の神は千人がかりでようやく運べるほどの大きな岩を指先で担いで持ってきて、『誰だ、私の国に来てこそこそとそのようなことを(この国は天照大神のものだ)言うのは。それならば、私と力比べをしろ。まず私があなたの手を握ろう。』と言った。そこで武御雷の神は自分の手を武御名方の神に取らせなさると武御雷の神の手が氷になり、剣になった。そこで、武御雷の神は武御名方の神の手をとり、逆に返して若い芦のように軽々と握りつぶして投げ捨てになったので、武御名方の神は逃げてしまった。