* 7 *
僕は夜の砂浜を歩いている。三日月から零れ落ちた光の粒子が、優しく辺りを包んでいた。そして、波打ち際に佇む、一人の少年の姿。見慣れてしまっても、時々、ハッとするほど美しい。僕は黙って、その隣に並んだ。
もう何回、この場所で君に会っただろう。そんなことを考えると、不意に涙が出そうになる。それを必死に堪えて彼のほうを窺うと、同じことを考えていたのか、俯いて、唇を噛んでいた。
明日も、明後日も、当たり前のように会える。そう思っていたあの日、神様は僕に、お仕置きをしたのかも知れない。今日という日は、たった一回しかやって来ない、そう教えるために。
「パァル、」
泣いていると解っていたけれど、僕は声をかけた。
「ありがとう」
僕の名前を呼ぶ声。ずっと、聞こえていた。消えていくかも知れない僕の時間を、必死に集めて、繋ぎ止めてくれた。
「それと、ごめんね」
喧嘩をしたあの日のこと。僕はたった半日でも寂しかったんだから、半年も一人だった彼は、すごく寂しかったに違いない。彼は涙を拭き、何か言おうとしたが、駆け寄ってきたずぶ濡れの犬が飛びかかり、それを邪魔した。パァルは砂浜に尻もちをついて、顔を舐められている。まるで涙を拭いてやっているかのようで、犬なりの気遣いなのかも知れないと思うと、この大きな犬も可愛らしく見えてきた。ただ、パァルのシャツは、すっかり濡れてしまっていたが。
「……何だよ? また海に入ったのか?」
次に起こる出来事を予測した僕は、一人と一匹から、少し離れた。その瞬間、犬は濡れた体を思い切りふるって、水滴を飛ばす。顔に飛んで、涙と、区別がつかなくなった。
これから先、何回こんな場面を見るだろう。僕は笑いながら、そんなことを思った。そしてまた、涙が出そうになるのを堪えていると、波打ち際に、何か光るものが見える。犬も気になったのか、先に駆け出し、そのあとを追った僕たちが見つけたものは、底が割れた、フラスコのようなガラス瓶だった。パァルはそれを拾い上げ、万華鏡のように、月を覗く。
「そういえば、実験室からフラスコがたくさん盗まれたって、学校の掲示板に貼ってあった」
犯人に違いない人物を目の前にして、僕はそう言った。
「今度はシリンダーを盗んで、万華鏡にしてやろうかな」
桜貝と、ヒメルリ貝と、珊瑚の破片を入れたら、きっと綺麗だよ。言いながら、足元に桜貝を見つけて手に取る。本気で万華鏡を作るつもりなのだ。パァルはそれを、満足そうにポケットに入れた。
『今度いなくなったら、許さないから』
さっきパァルはきっと、そう言おうとしたんだろう。もう、二度と遠くへ行かないで、とは絶対に言わない。僕は確信して、犬に邪魔をされながら貝殻を集めて歩く親友の後ろ姿を、見つめていた。




