* 3 *
次の日も、その次の日も、僕はパァルを手伝って、光る貝を探して波打ち際を歩いた。光が見えなくなると、裸足になって海に入り、ひんやりと冷たい海水に秋を感じながら、波に洗われて貝が姿を見せる瞬間を待つ。その合間、飼っている犬の話や、学校の話、幼なじみの親友の話……パァルは毎日のように、色んな話を聞かせてくれた。毎日、ほんの少しずつ、嵩を増していく綺麗な粒子は、僕と彼との過ごした時間そのもの。そう思うと、その光が、何だかとても暖かく、大切なものに思えてくる。貝の中に光る砂を見つけては声を上げて喜び、見つからなかった時は、一緒に落胆する。歩き疲れると、砂浜に並んで腰を下ろし、また他愛のない話をした。そんな時間が、終わってしまう時が来るなんて、思ってもみなかった。
「蒼、」
出会って一ヶ月あまりが過ぎた夜。パァルが、光る砂で満たされたフラスコのようなガラス瓶を、月に翳した。
「手伝ってくれて、ホントにありがとう。やっと、一杯になったよ」
星の砂が生み出す神秘的な光に照らされた、綺麗で優しい笑顔。僕はその笑顔が見たくて、毎日、ここに来た。ふと見ると、さっきまであんなにたくさん浅瀬で光っていた貝の姿が、忽然と、姿を消している。それが何を意味するのかは、考えるまでもなかった。
「これでさよならなんて、言わないで、」
まだパァルは何も口にしていないのに、僕は泣きそうになりながら、そう言っていた。これからも友達でいたい。ずっと一緒にいたいのに。
「……大丈夫。また会えるよ、絶対」
さよならとは言わなかったが、同じ意味の言葉だった。きっと、ではなく、絶対、と言ってくれたことが、せめてもの救いだった。出会いも別れも、全て生まれついた星のもとに決まっているのだという、祖父の言葉を思い出す。祖父の話はいつも途方もなくて、幼い僕には持て余してしまうところがあったが、今はその奇跡を心から信じたい。現に、星の砂も、実在したのだ。
「パァルは、どうして星の砂を集めていたの?」
尋ねてはいけないのかも知れない、と思っていた言葉を、口にしていた。出会ってから今まで、色んな話を聞かせてくれた彼が、一度も口にしなかったことだった。しかし、彼が必要とする星の砂が自分にも見える理由が、知りたくもあった。そう打ち明けると、パァルはふっと優しい顔になる。しばらく、暗い水平線のあるほうを、見つめていた。
「どうしても、もう一度会いたい人がいるんだ」
波音が、二人の会話を邪魔するかのように大きく繰り返す。それは僕と彼との間に見えない境界を作り出し、別れの瞬間がもうすぐそこまで迫っていることを教えていた。ずっとこの海で育って、当たり前のように存在する海の存在を気に留めたことなどなかったのに、今は絶対的な力を持って立ちはだかった。まるで波に流されるように、パァルの姿も声も、遠くなっていく。
「どうしても、あの日に戻したいんだ」
もう、手を伸ばしても届かない。僕はそれでも手を伸ばした。彼の手が、微かに僕の指先に触れ、綺麗な瞳でジッと見つめる。暗がりでも解る、深いブルーの瞳。瓶の中の光が映って、揺れていた。
「寂しいのは、今だけだよ。明日になったらきっと、忘れてしまうから」
そんな悲しいセリフを、パァルは笑顔で言った。忘れたくなんかない。絶対に、忘れない。そう言い返したかったけれど、言葉にならなかった。




