第六話 小屋の中で何をするのですか
清田さんは女性の後ろをついてゆきました。暫く歩いていくと、物騒なものが視界に入ってきます。
「馬だ・・・」
清田さんがそう呟けば、女性は不思議そうに清田さんを見つめます。
まぎれもない馬でした。艶のある高貴な馬が、田んぼの畦道にうろついておりました。
時には畦の花を齧り、虫を弄りながら退屈を紛らわしていた馬でしたが、
女性を見るとたちまち目を輝かせました。相当懐いているのでしょう。
清田さんはまるで空気のようでした。
女性が馬と少し戯れた後、清田さんは女性に誘導され、馬の上に足をかけました。
思うより不安定で、ごつごつしている馬に驚きながら、軽々そうに女性も馬にのりました。
一匹の馬に二人の人間が乗ったにも関わらず、馬は平気のようです。
清田さんは無意識に女性の腰に手を回して、自分が安定するようにしました。
こうでもしないと、馬から落ちてしまいそうだったのです。
終止無言の状態が続きます。日は暮れ、紅に染まっていきます。
女性のゆったりとした息遣いは、聞こえそうで清田さんの耳には聞こえませんでした。
こんなに時間が過ぎ去っても、あたりの風景はあまり変わりませんでした。
遠くに賑やかそうな街が見えていますが、大きさは米粒程度です。目的地はどこなのでしょう。
聞いたって分からないのですが。
また暫く経ち、もう夜でした。服に透けた風が寒く、大分冷えていました。
賑やかそうな街は気づかないうちに見えなくなっています。
初めから終わりまで終止無言でした。清田さんは痛む腰を片手で叩きました。
じきに、馬が止まり、女性が馬から降りました。
清田さんも見よう見真似で馬から降りようとおもいましたが、やはり無理なようです。
挙句清田さんは女性に支えられながら、ゆっくりと地面につきました。
辺りを見回すと、周囲には一軒の小屋しかなく、後は木に囲まれていました。
清田さんは女性の方を見ると、女性はゆったりとした動作で馬を撫でていました。
美人は何をやっても様になります。唇をあげて微笑む仕草はまるで天使のようです。
いきなり、きゅる、と馬が音をたてました。清田さんは吃驚して馬を凝視します。
きゅるきゅるきゅるきゅる
まるでお腹がなっているかのように、馬は体内からそんな音を発しています。
この音がやけに大きく、黒板を爪で引掻いたような不快な音でした。
清田さんは目を見開きました。馬が跡形もなく消え去ってしまったのです。
本当に一瞬で、清田さんはその瞬間を見逃してしまいました。
「まずは部屋に入ってから説明しようかね」
女性はそう言いました。言葉が通じる事に清田さんは吃驚しました。
「これは、魔術なのだよ」
女性は清田さんの胸の内を読み取った様に言います。
「さあ、中へ入ろう。寒いしね」
女性がそう言うと小屋の中へ入っていきます。