第五話 女性を見ると、にやにやします
清田さんは朝、がりがりと野野菜を食べ、夜になると就寝する生活が続いています。
特に難しい事は考えていません。
困った事と言えば、服が汚れている事と体が洗えない事だけです。
清田さんには生きてゆけるだけで充分でした。
白い物体の事も、半透明の事も、異世界だから仕方ないぐらいとしか考えていません。
きっと地球には居ない小型生物なのだろうと、そんなぐらいなのだろうと清田さんは思っていました。
「ねえ、あの子誰なの?」
「知らないけど、死なないか心配だわ」
「まあ大丈夫じゃない、今生きているんだし」
「それよりさ、あの家の・・・・・・」
主婦達は噂話に勤しんでいました。
周辺住民達は清田さんの事を心配していました。きっと親切な人達なのでしょう。野山を歩き
畦を歩く清田さんの背格好を見ながら、あの若い娘は誰とぼやき、
形容しがたいあやふやな気分になりながら日々過ごしていました。
清田さんに朗報が出来ました。穴場スポットが見つかったのです。
そこは野山を少し進み、獣道から外れた所にある人一人程が入れるぐらいの、池でした。
覗き込むと下の地面まで見えるぐらい、澄んでいるうえに清田さんの腰ぐらいまでしか
水が無いので、体を洗うのには最適の場所でした。
水飛沫が跳びました。清田さんは時間を忘れ、体を洗い、髪を洗いました。
土臭かった体は無臭になり、髪も無臭になって清田さんはご満悦です。
清田さんが最後に池を覗き込むと、自分の顔が水面に映りました。
死んだ目をした、疲れた顔をした女が、こちらを向いてにやっと笑いました。
清田さんは惨めな気分になりました。
夕焼けが空に満ち、清田さんは帰途につきました。
清田さんが野宿場に戻り、残りの野菜を頬張っていると、ある音に気づきました。
人です。清田さんはそう思い心臓が高鳴りました。
人だからと言って恐れる訳でも逃げる訳でもありませんが、そう感じました。
ただ、自分の前を過ぎていくか、他の道を通るのか、それだけだろうと思っていました。
ところがどっこい。
軍服を身に纏い、銃を携えた女性が、こちらへ向かってくるではありませんか。
清田さんは吃驚しました。腰丈まである、艶やかな銀色の髪に、絶妙のプロポーション。
切れ長の目に、凛々しく描かれた眉。小さく整った鼻に薄い唇。美人でした。
清田さんは何をされるのかとはらはらしていました。
清田さんの手を女性は取り、立ち上がらせました。誰ですか、あなたは誰ですか。
清田さんはそう頭の中で念じました。
女性は清田さんを指差し、後ろへ何か問いかけました。すれば、ひょっこりと主婦らしき
朗らかな女性らが数人、物陰から出、うんうんと頷きました。
悪い噂流れてたら嫌だな、清田さんは僅かながらにそう感じました。
女性が清田さんを先導すると、清田さんは暴れる事無く、素直に女性の跡をついていきました。
殺されたりしたら困るな、清田さんはどうか殺されませんようにと祈りました。
痛いのだけは無理です。
ご指摘あれば、ぜひよろしくお願い致します。