第四話 変なものが居たんですが消えました
清田さんは暮れた日を、田んぼの真ん中で何も遮られる事無く見たことは、久しぶりの事でした。
清田さんは比較的田んぼに囲まれた田舎に住んでおりましたが、最近は外出する事も少なく、
勉強勉強、稀に遊び、という感じの生活だったので、田んぼの畦道を通ったりするよりは
アスファルトの整備された道を通る方が最近は多かったのです。
清田さんは、白い物体の事を気にかけていました。
あれは何。そして何。疑問だけが浮かんでは消えてゆきました。
清田さんの学生服はもう泥に塗れて、破れてはいませんでしたが、
元の白いブラウスの色は茶に染められていました。
清田さんがここへ着てから何日が経ったでしょうか。2日しか経っていないようですが、
清田さんにとっては一週間も何年も経った様な気がしていました。
学校指定の白いハイソックスももう泥で塗れ、靴は破れかけています。
何年も履いていた靴ですから、何もしていなくてもじきに破れたでしょう。
清田さんは、完全に視界が闇に遮られるまで、周辺の食料をかき集めました。
畦に生えた硬い茎、寝床の傍に流れる清水。
それらの全てが清田さんにとって大事ないのちの源なのでした。
そろそろ火が欲しいですね。そんな事を清田さんは思っていましたが、
それを手にするのは夢のまた夢。先人の辛さと苦労を清田さんは思い知りました。
清田さんも気づいていたようですが、周囲の目が気になってきた頃になりました。
すれ違う人々とは違う格好をしているのもあるでしょうが、何より知らない人だったので、
周辺住民は清田さんの事を心配するような、気味悪がるようなよく分からない気持ちで、
清田さんを見守っているのです。
清田さんもそれには申し訳なさそうにしていましたが、今は気にしない事に決めています。
言葉が通じないから仕方ないのよ。そうそう。清田さんはそれを頭のなかで決め込んでいました。
清田さんは、友人や周りに干渉されないこの時間を、楽しんでいるようにも見えました。
眠たくなったら眠り、眩い日差しに起こされる。
そんな事が今のわたしには大事な事なのかもしれません。と、清田さんはぼんやり思いました。
朝です。清田さんは、時間に悩む事無く目を覚まします。体を起こし、枕代わりの鞄を懐に
戻し、汚れて乾いた土を服から払い落としました。近くにある溝に流れる清水で顔を洗います。
清田さんの野宿する家の壁付近は、あまり人が通らない所でした。最初は通る人も見受けられ
ましたが、運の良い事に、畦道を通るおじいさん、おばあさんの死角に清田さんは野宿してい
たので、ばれる事はありませんでした。
清田さんは当たり前の様に筍らしき物体を頬張ります。
食べれるって素晴らしいことなんだと清田さんは感動しました。
腹を下す様子も無いし、ここの食べ物っていいかんじです。
本当に、良い感じです。
清田さんは二回思いました。
ふと、清田さんは気づきます。
何かの気配がします。
清田さんは首を周囲に回しながら、耳をそばだてました。茂みと擦れる音が、
少し離れた所から聞こえてきます。
ひょっこり。
清田さんは目を見開きながら、上体を何かと離れた方向へ見開きました。
食べかけの筍を危うく吐き出してしまいそうです。
何かは半透明の桃色をしていました。動き方は、まるでナメクジの様です。
小さい触手をぬるぬると動かして、ゆっくり前進してきています。
少し動くたびに、ゼリーの様に揺れています。
目は、卵をそのままはめこんだ様に、明らかに硬そうで何より、粘液とみられる物が垂れています。
大きさは典型的な女性体型の清田さんの膝元にも及ばず、とても小型なものでした。
清田さんは、
異世界ってすごいな、
と、とても長閑な事を思っていました。
と。
ふと。
清田さんがそんな事を思っていると、ねばねばした半透明が、
近くに落ちていた少し太めの枝に引っかかりました。
枝が半透明の粘液に刺さり、半中に枝が入ってゆきます。
すると、半透明が苦しそうに蠢き、霧状になって、空気に溶けていきました。
枝に、半透明の物体が、負けました。
清田さんは喫驚しました。