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やはり阿部さんは素晴らしい  作者: 薔薇色の何か
保護院で学びましょう
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第二十一話 狩りです

ご覧いただきありがとうございます。

ほのぼの書いていきます。


「さーて、この辺だな」


小一時間山を進んだ後、ふんと鼻を鳴らしてタントさんが言いました。

険しい斜面を抜けた先に、平坦な土地が広がっていました。

その場所だけ木や植物が自生しておらず、生命の気配を感じることが出来ません。昼間であるにも関わらず、陽の光を拒絶するかのような雰囲気に清田さんは圧倒されます。


「怖いよ・・・お父さん」


清田さんの前を歩いていたウリプルスが声を震わせました。清田さんも同じ気持ちで、タントさんを見やりました。


狩りの手伝いを安易に了承してしまったことに、後悔を感じていました。


「なーんだ二人とも!そんなに怖いことじゃあない!生きていくのに必要なこと!

 特にウリプルス!お前は獣人なのだから魔物くらい片手で狩れるようにならにゃならん!」


二人の様子を見て、タントさんが大きく口を開けて笑いました。


「キヨタもだ!将来冒険者として生活していきたいなら、魔物に怯えてるようじゃ話にならない!

ウリプルス、キヨタ!今日はしっかりオレの動きを目に焼き付けるんだ!」


清田さんはそのときなるほど、と理解しました。タントさんは身寄りの無い自分を案じて、ウリプルスと一緒に狩りに連れてきてくれたのです。


将来、職を持てなくても冒険者として生きていけるように。

最低限、生活が出来るように。


清田さんはタントさんの意図を読み取って、自分の気持ちを抑えるように深呼吸しました。


「ありがとうございます、タントさん。今日は勉強させていただきます」


「それでこそ新米冒険者だ!ウリプルスはどうする?さっきまでの元気はどうした?」


嬉しそうにタントさんは笑って、それからウリプルスを見やりました。ウリプルスは清田さんの袖をぎゅっと握って、瞳を揺らします。


「だって魔物って怖いんだよ・・・ボクのトモダチも、センセイも皆・・・」


ウリプルスは暗い影に身を落としました。

きっと、思い出したくない過去があるのでしょう。

清田さんがもともと居た場所では経験できないようなことが。


清田さんはどうしていいか分からず、ウリプルスの背中を優しく撫でました。


「大丈夫。私がついてるから、私と一緒に隠れよう」


タントさんの意思を大いに汲んで、清田さんは優しく言いました。長い長い沈黙の後、ウリプルスが小さく頷きます。



その瞬間。


大地が大きく揺れ、葉が強く擦れる音がしました。周辺に居た生き物が、この場所から離れていきます。鳥ががなり声をあげながら飛び立つと、奥の方から低いうなり声が聞こえてきました。


ウリプルスは清田さんの袖を強く強く掴みました。下を向いて、きゅっと目を瞑っています。


「キヨタ、ウリプルスを連れて木の陰に潜んでてくれ!しっかり学ぶんだぞ!」


「分かりました!」


清田さんはウリプルスの手を引いて、大木の裏に身を潜めます。ウリプルスは目を瞑ったまま、清田さんに引っ付いて離れませんでした。


「いいのが来た」


タントさんはにやりと笑って奥に潜む何かと対峙します。

それが足を進めるたび、地響きで清田さんたちを揺らします。

ウリプルスを抱いたまま、清田さんはそれが何であろうかと凝視しました。


「・・・・・・!」


大きな大きな四肢でしっかりと体を支え、全身には太い毛をまとわせています。猪のような出で立ちです。

毛には泥なのか、汚れた塊がこびりついていて、息をしたくなくなる程の腐敗臭が放散しています。口からは鋭い牙がこぼれ、鋭い眼はタントさんをひたすら睨んでいるように感じました。

これが魔物だ、という出で立ちに清田さんは息を呑みました。


「上物のタンカだ。ここまで大きいのは初めてだな」


タンカ。その単語に清田さんは聞き覚えがありました。


タンカ、タンカ。そうだ、タンカの炙り物!

あの逸品が、こんな魔物だったなんて。


清田さんは衝撃を受けるとともに、じっと身構えました。

何か攻撃が来たりでもしたら、全力でウリプルスを守らなければなりません。ウリプルスは時折姿を現した魔物を見やりながらも、清田さんの腕にしっかりと掴まっています。


「しっかり見てろよ、二人共!」


タントさんはそう叫んで、魔物タンカに駆け出しました。



そこからはもう早いこと早いこと。


タンカの突進を寸前の所で避け、木に衝突させてダメージを負わせます。二回目の突進では、真正面から攻撃を受けつつもしっかりと受け身をとり、攻撃を分散させました。


タンカの攻撃は1パターンで、突進と攻撃を繰り返すのみ。


三回目の突進では、タントさんは大きく地面を踏み込み、跳躍してタンカが通過するのを待ち構えます。


そして、真下にタンカが通過しようとした瞬間。

タントさんは重力を無視して急落下しました。拳を強く握り、タンカの眉間に強烈な打撃をおみまいします。


タンカの頭は思い切り地面に打ち付けられ、地面がタンカを縁取るようにめり込みます。あまりの衝撃に、清田さんの前髪がふわりと浮かびました。


「おしまいだ」


タントさんは拳を振り上げて、もう一度タンカの眉間に強烈な一撃を加えます。小さく唸り声をあげたタンカは、動くこと無くそのまま瞳を静かに閉じました。


タンカは例外なく霧散し、黒い霧となって天高く登ってゆきます。


辺りの静けさはどこへやら。太陽はいつの間にか清田さんたちを照らし、生物たちが辺りでうごめき始めています。


「ほええ」

清田さんは素っ頓狂な声をあげながら、見事な戦いを見届けました。


「どうだキヨタ!ウリプルス!これが狩りだ!覚えておけよ!」

タントさんは誇らしげにそう言いました。

清田さんたちはタントさんの所に駆け寄っていきます。


「お父さん!怪我してない?良かった!良かった!」

ウリプルスは安堵して、いつの間にやらタントさんの胸に抱かれています。


「おー、ウリプルス!お前も怖がっていないで、いつかは立派な獣人になるんだぞ!」


嬉しそうにタントさんが言う隅で、清田さんもにっこり笑いました。あっという間の戦いで、参考になるか分かりませんでしたが、この戦いは清田さんの中の大事な記憶の一ページに刻まれることでしょう。


「帰ろう」

三人は戦いが終わると、そそくさと下山して、家を目指します。


タンカが残した報奨は、大きな大きな生肉でした。タントさんは清田さんにもっと筋肉をつけろとその生肉を半分譲り渡し、意気揚々と山を駆け下ります。


「お姉ちゃん!守ってくれてありがとうね!」

ウリプルスは清田さんにお礼を述べて、山を駆け下りていきます。


そんな清田さんは山を駆け下りるのに手一杯です。


「今日はまだ早いから、うちでご飯を食べていきなさい!ご馳走するよ!」


清田さんはタントさん宅でご馳走になりながら、家族団欒、幸せな時間を過ごしました。

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