第二話 清田さんがシリアスになりました
「それにしてもここは何処なのですか」
清田さんはそう呟きました。
いつの間にか、異世界へとトリップしてしまったなんて、清田さんには考え難い事です。
鞄にあった飲料を少し口に含みました。美味い水だ。
清田さんはそんな事を考えながら、ぼーっとする頭を回転させました。
清田さんは今、畦道から歩き、人の気の無い家の壁に寄りかかっています。
少し日が暮れ、空が赤くなりました。
きっと第三者から見れば清田さんの存在感の薄さに驚くでしょう。
清田さんは今、家の壁の影と同化しています。
ですから、ぼーっとする清田さんの横を誰かが通っても、誰も見向きもしませんでした。
清田さんもぼっとしていたので、人が通った事を気づきません。
清田さんが居る家の壁を小道に挟んで、清い水が流れる溝がありました。
その向こう側にはまた人気の無さそうな家があります。
ここあたりに人は住んでいるのでしょうか、と清田さんは考えました。
清田さんは考え込みました。
どうしてここへ来てしまったのかと、どうしてここで生き抜いていくかについてです。
なんくせ、言葉が分からないものですから、清田さんは働くにも働けません。
どうしてここへ来たのかは置いておいて、取り敢えず言葉を何とかせねばなりません。
ああ、どうすればいいのやら全く分からない!父や母が今頃心配しているだろうな。
生きていく為の食料さえあてが無い。わたしは生きられるのだろうか。
それとも誰かに拾ってもらおうか・・・。
いや、それだけは御免被る。迷惑を掛ける事だけはごめんだ!
清田さんの頭の中でそんな事が目まぐるしく回っていきました。
きっと清田さんが空腹か精神的苦痛で倒れれば、誰かが助けてくださるでしょう。
ですが、清田さんはどうしてもそれだけは嫌でした。
恩をつくられるのはむしろ嬉しいけど、迷惑を掛けるのは、恩をつくるのは清田さんにとって、
許容し難い事でした。
ですが、独り身な故、迷惑を掛ける可能性は極めて高い。
清田さんは絶望にうちひしがれていました。
きっと今、親が必死になって清田さんを探しているでしょう。
清田さんはあまりその事を頭の中に入れたくありませんでした。
警察に届け出されるのも時間の問題。でも、それは無駄骨折りな事です。
清田さんの腹がぐうぐうと鳴りました。飲料水ももうすっからかんです。
清田さんは空腹を紛らわす為、就寝につきました。困った事は明日、考えればいいじゃない。
それが清田さんの一つの逃げ道でした。