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やはり阿部さんは素晴らしい  作者: 薔薇色の何か
保護院で学びましょう
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第十九話 魔術を使いこなしましょう


「ふんふんふん」

清田さんは軽い足取りで獣道を進んでいます。


「おねーちゃん!すっごいね!どうしてそんなに力持ちなのー?」

可愛らしい獣人の子、ウリプルスが、こちらを見上げながらきらきらした目で見つめてきます。


「えへへへ」


清田さんは破顔しました。どうやら、褒められることには慣れていないようです。



今日も清田さんは、材木運びに勤しんでいました。

魔術を使いながらの労働です。

自分の腕に力をまとわせ、軽々と材木を運んでいます。

昨日の経験が、清田さんの労働心を駆り立てていたのです。


*


昨日、荷物を積み下ろし、ラーヴェが去った後、こんな会話がありました。


「お疲れさま、キヨタ!おかげで、すっごく助かったよ」


イシュゲルが清田さんに笑いかけます。

何かの役にたてたことが嬉しくて、どういたしまして、と清田さんもにっこり笑いました。


「ちなみにこれは、何の荷物ですか?」


降ろした大量の荷物を見ながら清田さんが聞きます。


「これはね、子どもたちの服やおもちゃ、食糧だよ。ラーヴェが集めて持ってきてくれるんだ」


無理してこんなことしないでいいのに。

口には出しませんが、イシュゲルの心の声が清田さんに聞こえた気がしました。


「最近は子どもの数も増えて、支給される物資も多いわけじゃない。すっごい助かるんだけどね。普通に集められる量じゃないよ」


でも、断れるほど施設に余裕がある訳でもないから。


そう悲しそうにイシュゲルは呟きながら、物資を建物の中へと運んでいきます。


清田さんはそれを手伝いながら、自分も早く自立して、支援できる立場になれればとと考えたのです。


*


「おまえさん、前はダメダメだったのに、急に一体どうしたんだ?」


タントさんがすいすいと材木を運ぶ清田さんの姿を見て問いかけます。

ダメダメだった、という一言に悲しさを覚えつつも清田さんは答えます。


「コツを教えてもらったんです」


魔術って言うみたいです。と、清田さんがタントさんに魔術を使うときの感覚や驚いたことをゆっくり話しました。


「へえ、俺達は獣人だからよく分かんねえけど、それは良かったじゃねえか。うちにもっと働きにきてもらわねえとな」


どうやら、獣人と魔術は繋がりが薄いようです。

タントさんは期待した笑みを清田さんに向けます。


「ぜひお願いします」


嬉しそうに清田さんが答えました。

働き口の確保は何より大切です。



前よりも一段階早い速度で材木を運び終えたタントさん一家と清田さんは、

木の陰で足を休めています。


「そういえば、おまえさん、なんでこんな仕事をしてくれるんだ?子どもだし、オンナだろう?」


理由?理由と言えば、どうしてだろう···

清田さんは逡巡して、正直に答えます。


「就職案内所で紹介していただいて、たまたまですかね···」


本当にその理由だけなんですが、と付け加えて清田さんは困ったように笑いました。


「そうなのか。オレたち獣人は、人より大きな力を持っているから、恐れられているんだ。おまえさんみたいに手伝ってくれるなんて珍しい」


だってお金が貰えるから。

そんな言葉は胸の奥に閉まって、清田さんも答えました。


「ここに居ると、家族の輪に入れたみたいで、とっても安心できまるので···。あと、お金もらえるし···」


どちらも本心でした。

胸の奥に閉まった言葉は、簡単に口から出てきます。


アハハ、とタントさんは笑いました。


「正直な子だね!面白い!仕事じゃなくても、寂しくなったらいつでも遊びにおいで」


「おねーちゃん、約束だよ!」


「次はご飯でもごちそうしましょうか」


優しい言葉に、ついつい清田さんの涙腺が緩みます。

清田さんもまだ15歳の少女。

不安なことだらけで、毎日が綱渡りのように感じていました。


「ありがとうございます。門限があるので、今日は帰ります」


空は赤く染まり、日は沈もうとしています。

昼にはたくさん居た謎の生き物達の気配も、少なくなっていました。


清田さんはタントさん一家と長いこと手を振り合いながら、帰途についたのでした。

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