第十八話 働かざる者食うべからず
「さてキヨタ、ちょっと手伝ってほしいんだけど、来てくれる?」
なんとも言えない雰囲気の中、イシュゲルがパンと両手を叩いてそう言いました。
「もちろんです」
清田さんは即答して、立ち上がります。
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清田さんたちが保護院の入り口まで行くと、そこには高く高く荷物を積んだ手車が置かれていました。
「これを私達と一緒に積み降ろしてほしいの」
見事に積み上げられた荷物を見上げ、清田さんはひとこと、わあ、と感想を述べました。
どうやったら、こんなに積み上げられるんだろう。
見上げていると、首をつってしまいそうです。
「降ろすから、受け取って」
ラーヴェと呼ばれた少年はそう言うと、荷物の一番上に一飛びしてこちらを一瞥するように言いました。
清田さんは、当たり前のように飛び出した跳躍力に驚きが隠せません。
「キヨタ!ぼーっとしてないで、手伝ってよー!」
イシュゲルに声をかけられ、キヨタさんも急いで積み降ろしに参加します。
「重い···」
タントさんたちの材木運びを彷彿とさせます。
荷物は一つ一つが大きく、重く、そして持ちにくいのです。
「おい、大丈夫か?」
白髪の少年、ラーヴェも心配して清田さんに話しかけますが、
孤軍奮闘、清田さんには一切聞こえていません。
清田さんがひいひい言っていると、
荷物を楽そうに持ったイシュゲルがちらりとこちらを見て言います。
「こういう時も魔術なのよ。想像してみて」
想像?そう言えば、本にもそんなことが書いてあったっけ。
軽々と荷物を受け取る想像、荷物を持って駆け回る想像を清田さんは繰り返してみました。
しかし、眉間に皺が寄るばかりでなかなか上手く行きません。
「そうじゃなくって!さっき本を飛ばしたときの想像をしてみて!どこを意識した?」
そうか、さっきは大地からの力を貰って、自分の体に取り込む____そんな想像したんだ。
清田さんは大きく深呼吸して、想像しました。
大地から湧き上がる力を自分の脚から取り入れ、それを体中に巡らせます。
行き先は腕。自分の筋肉と魔力が混ざって、大きな力を発揮します。
「わあ!軽い!」
すっと荷物の重みが消え、まるで綿でも持っているかのようです。
すごい、と清田さんは驚いた表情でイシュゲルに笑いかけました。
「教えてくれてありがとうございます!」
「とんでもないわ。魔術は使い方なのよ。私、見る目あるみたいね」
これで積み下ろしも楽になるわ、と嬉しそうに笑いました。
パワーアップした清田さんにイシュゲル、ラーヴェであっという間に積み下ろしは進んでいきます。
「ふーう、終わり!」
イシュゲルが最後の荷物を受け取って地面にどんと置きました。
「おつかれさまです!」
清田さんは肩で息をしながらそう言いました。
魔術を使ったことで、体力とは違う何かが消耗されているようでした。
ラーヴェはそれを横目に、イシュゲルに話しかけます。
「また物資が集まったら来る」
「いつも助かるわ···ありがとう。こんなことしなくてもいいのよ···。いつでも休みに来てね!待ってるからね!」
そそくさとラーヴェは手車を押してどこかへ消えてゆきます。
また来てねー、と大きく手を振るイシュゲルの真似をして、清田さんもその横で、ぽかんと口を開けながら小さく手を振るのでした。