第十六話 のんびり清田さんと魔術
まばゆい日差しに照らされて、清田さんは目を覚まします。
軽いうめき声をあげながら、差し込んだ光に体を向け、大きく一回のびをしました。
「いい朝」
清田さんはいつになく血色の良い顔をして、そう呟きました。
机を見ると、昨日食べたミソルジの器が転がっており、手には報酬である紙幣が握られたままでした。
体を動かすたび、全身の筋肉が悲鳴をあげます。
こんな経験もなかなかないものだ、と清田さんは顔を顰めながらも、
ふわふわした不思議な気持ちになっていました。
***
お昼になると、清田さんは魔術の練習を始めました。
【こどものまじゅつ】を読みながら、なぞるように進めていきます。
(息を大きく吸って・・・)
(大地の力を自分に取り込むように、全身の感覚を研ぎ澄ませて・・・)
指先の神経までもが、洗練されていくようです。
部屋の中の空気の流れが、清田さんの体の中から湧き上がる何かと合わさって、さらに強い流れになっていきます。
(本を1ページめくってみましょう)
清田さんは、強く想像しました。強い流れが、優しく本をまとってページをめくる。
その瞬間、清田さんはぱっと目を開きます。
集中に力を使ったのか、額は少し汗ばんでいました。
「うわあっ」
清田さんがぎょっとした声をあげます。
1ページが小刻みに天に向かって震え、本一冊ごと上方に高く跳ね上げたのです。
(魔術は、たまに思ってもいない働きをすることがあります。こつこつ練習して、実践につなげましょうね)
本の最後には、こんなことが書かれています。
清田さんは、まさか自分が本を動かせるなどと思ってもいません。
ひどく驚いた顔で、自分の手を見つめました。
この世界は知らないことばっかりだ。
もっと学ばなきゃ、生きていけないんだ。
清田さんは、本能でそう感じました。
清田さんは座っていた椅子の背もたれに深く腰掛けると、
ふう、とため息をついて窓の外をふと見やりました。
太陽がさんさんと振りさして、広い運動場から子どもたちの歓声が聞こえてきます。
その声に聞き入りながら、子どもっていいもんだなあ、と清田さんは子どもらしくないことを考えます。
そのまま疲れを感じた清田さんは、椅子に座ったまますうと眠ってしまったのでした。