表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やはり阿部さんは素晴らしい  作者: 薔薇色の何か
保護院で学びましょう
15/23

第十五話 帰宅します

「はあ」

 清田さんはミソルジを食べています。

特別美味しいという訳ではありませんが、これが故郷の味という物なのでしょうか、

いつも家で出されていた味噌汁と、味がとても似ていました。

体感的な暖かさだけでなく、心までも癒されてしまいそうです。

ミソルジには豆腐とそっくりなものが、溢れんばかりに入っていました。


一体この世界で誰がこれを考えたんだ。


清田さんは疑問を抱かずにはいられませんでした。


「ハフ」


夢中になって食べた後は、少しの休憩です。

満たされた腹を撫でつつ、通りから流れ込んでくる風にうっとりとしています。

空を見上げると、米粒程度に見える星々が、おとなしげに光っていました。

疲労を訴える手足に任せて、今にも眠ってしまいそうでしたが、清田さんはぎりぎり

の所で堪えます。少し歩けば、保護院のベットにありつけるのですから。


 今座っているベンチから離れるのは億劫ですが、保護院に早く帰らなければ

なりません。


「帰らないと」


 清田さんは睡眠欲を殺して、保護院へと目指しました。






 暗い夜道を、清田さんはぽつぽつ歩いていきます。

どうやら保護院の通りは、屋台などもあまり開かれていないようでした。

通りの店はもう戸締りを終えたのか、人っ子一人見当たりません。

目を凝らしながら歩くと、高い塀が見えてきました。これが保護院の目印です。





 清田さんはミソルジの入っていたお椀を片手に持ちながら、保護院の門を開けます。

すると、顔を真っ青にさせたイシュゲルが、清田さんを待ち構えていました。


「15分遅れ!ヨルダンにばれちゃう!さあ、私が誤魔化すから早く部屋へ!」


これからゆっくりしようと思っていた清田さんにとって、予想外の展開です。

 どうやら、門限を越えてしまっていたようでした。

ヨルダンは時間に厳しいようですが、イシュゲルが何故こんなにも顔を青くさせている

のだろうか、と清田さんは思いました。

 怒られるのは、イシュゲルではなく清田さんの方なのに。

 謝ろうと口を開こうとしますが、イシュゲルの方が一手先だったようです。

清田さんに口を開かせる隙を与えず、イシュゲルは清田さんの背中を勢い良く押しました。


「とりあえず部屋に戻りなさい!」



言われるままに、清田さんは足に鞭を打って階段を駆け上がりました。

久しぶりの二段飛ばしで、ぐいぐい登っていきます。

イシュゲルの言葉にただならぬモノを感じた清田さんは、素早く自室へと逃げ込みました。


*



「はあ。疲れる」


イシュゲルは大きな溜息を吐きました。

小さな子どもはもう眠り、その他の子ども達も部屋で大人しくしているか、保護院の

どこかで雑談しているかの三択になっています。

人数確認の時にキヨタが居ないと聞いて、イシュゲルは目玉が飛び出そうなくらい驚きました。

確認とは言っても、魔術で院内に誰がいるかなどを把握するだけの簡単なものですが。




「まさか、キヨタちゃんが早々遅刻するなんて」


イシュゲルはキヨタが夜遊び等をするような人間とは思えませんでした。


「事情はありそうに見えるけど」

彼女は保護院へ来てまだあまり日も経っていないのだから、外に出ることは無いだろうと

イシュゲルは確信していました。見かねる程であれば、自分が案内してやろうとも。

保護院の子ども達は、今でこそあんなに馬鹿騒ぎしていますが、初めの頃は思い出すだけ

でも悲惨な状態にありました。

 イシュゲルは、彼女もそんな所だろうと思っていたのです。


「15だというし、そこまで心配するほどでもなかったわね」


ここにいる子ども達よりは、考え方もしっかりしていると願いたいものだとイシュゲルは思いました。

保護院の子ども達と同様に、彼女も出生は不明で、今までどうやって生活していたのかも

イシュゲルには分かりません。


「浮浪児だったのかしら」


あるいは、時たま発見されるという特殊な知識を持った人間か。


「いけないいけない」


保護師という職を持ちながら、他人を詮索することは禁じられています。

これは『国家保護師になるための誓い』という著名な保護師が書いた本にも強く記されています。

イシュゲルは、自分の頬を叩きながら、深く反省しました。


「だれも居ないわね。ヨルダンも居ないわ」


周りを良く見て、ほっと一安心しました。


この大きな独り言を聞かれていては困るし、子どもが遅刻したとヨルダンにばれるのも

イシュゲル、いや皆にとって困ることです。


「何か、面倒臭いなあ」


本当、色々と。

イシュゲルは自分の肌とくせのある赤毛を忌々しげに触って、大きな息を吐きました。



 時間に厳しいヨルダンがこの事を知れば、どんな顔をしたことでしょうか。



イシュゲルはヨルダンが憤怒して胴間声を上げる姿を想像しながら、自分ももう帰ろう

と思って踵を返しました。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ