第十三話 仕事を遣り遂げたいです
犇めく木々に、流れる小川、そしてそこに架けられた、小さな丸太。
清田さんはそこを歩いていました。
足元はぐらつき、今にも滑ってこけてしまいそうです。
しかし、ある程度慣れてくると、周りの景色にも気を向けることが出来ます。
日本では見られないような、動物が盛りだくさんです。
清田さんが始めて見た、ふわふわした白い生物も、スライムみたいにぐちょぐちょした
生物も、そして今まで見たことが無い奇抜な色をした鳥も、自由気ままに動いていました。
「おまえさん大丈夫か?」
独特の獣臭が流れてきます。
「大丈夫です」
そうかそうか、とその人は、黄色くなった犬歯を剥き出しにして笑いました。
獣人の、ロー・タントさんだそうです。
「珍しい。今時こんな仕事、したい人も居なくてな」
困ってたんだ、とタントさんは苦笑いをしました。
「ここら辺で下ろして」
タントさんが肩に担いでいた丸太を降ろそうとすると、彼の剛毛が引っかかりました。
白や灰色をした毛は、手入れをしたら高く売れそうだなと清田さんは隠れて思いました。
「おーい!」
ふと遠くから、女性の声が聞こえてきます。
するとタントさんは今まで細く閉じていた目をきっと光らせ、
「今行くぞー!」
ととても大きな声で叫びました。
「ここで休んでなさい。すぐ帰ってくるから」
人間とは思えないようなスピードで山中を駆け上がっていくタントさんを見て、
追いかけた方がいいのかなと考えた清田さんでしたが、生憎疲れきっていたので
彼の言葉に甘えるようにして、清田さんも必死に運んだ小さな丸太の上に座りました。
「はあ」
座ると、一気に疲れが流れ込んできます。
これは暫く立てそうにないな、と清田さんは思いました。
折角イシュゲルから貰った服も、汗でぐっしょりしています。
こんなに大変なんだ。
清田さんはしみじみと感じました。
筋肉がつくな。
細くて貧弱な自分の腕を見て、恥ずかしい気持ちになりました。
まさかこんな仕事だとは。
おじさんが紹介してきた仕事は、『材木運び』でした。
体力にあまり自身が無い清田さんにとっては、過酷な労働になるだろうという事が
容易に想像できます。
清田さんにとってそもそも、それが持てるかすら心配なのです。
「できるって。根性だよ」
そう笑い飛ばしたおじさんに対して、返す言葉は見つかりませんでした。
ですが報酬は他の仕事のほぼ二倍。
そう考えるといい経験にもなるし、一石二鳥かもしれない。
息を整えた後、タントさんが駆け上がってきた方を見ると、三人の人影が見えました。
タントさんと、獣人の女性、子どもが駆け下りてきます。
「お父さん。お仕事おわったの?」
小さな獣人の子はタントさんにそう尋ねました。
「うんうん。終わったぞ。帰ったら母さん特製の料理食べような。な?」
タントさんは期待したように獣人の女性をチラと見ます。
獣人の女性は、背丈は清田さんと同じくらいながら、腕と脚は太くしなやかで、
目は吸い込まれそうなほど大きく、優しい雰囲気を醸しだしてきます。
「分かりましたから。待っていてくださいね?」
そう可愛らしく言うと、タントさんが運んできた大きな丸太を担ぎ上げました。
獣人の子も羨ましそうにそれを見て、
「僕も持てるもん!」
よいしょ、と清田さんが持ってきた小さな丸太を担ぎ上げました。
それを見て清田さんは、
私は力がなさすぎる。
と落胆しました。
「獣人はな、人間よりも力があるんだよ」
大きな丸太を持ったタントさんが言いました。
彼らはずんずんと進んでいきます。
清田さんも、小さな丸太を顔をしかめながら担いで、追いつこうと躍起になるのでした。