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やはり阿部さんは素晴らしい  作者: 薔薇色の何か
保護院で学びましょう
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第十二話  行動に出ましょう


朝の日差しで、清田さんは起床しました。

どうやら窓を開け放しにしていたようで、さわやかな風が流れてきます。

机に置かれたままの、『こどものまじゅつ』がページを左右に躍らせていました。


外を覗くと、数人の子どもが、はしゃぎ声をあげながら、鬼ごっこをしているようです。

しかし、その様子は、日本での鬼ごっこを多少違うようでした。


「ヴウウウ!我は大魔王!アムスハウエル王国を守りたくば、我を倒すことだな!」

清田さんにも聞こえるような大きな声で、一人の少年が叫びその声と共にあとの子ども達が

少年を追いかけ始めました。

「まてー!大魔王!俺が倒してやるー!」

そんな情景を可笑しく微笑ましく思いながら、

清田さんは『こどものまじゅつ』と対面していました。


*


昼になると、太陽が照りつけ、夏を連想させるような熱気が広がります。

もしかしたらここの季節が夏なのかもしれませんが、それは分かりません。

清田さんは『こどものまじゅつ』を読むのを止め、散策という名の気分転換に外へと足を

向けました。

以前は通りしか歩きませんでしたが、少し入り組んだ所も歩いてみようと思って、

清田さんは広場から少し離れたところまで歩いていきました。

様々な店が立ち並ぶ中で、『ジョゼフ婦人服店』という看板が目に留まりました。

高級そうな外観に、この時代とは何だか違っているような、ガラスのウインドウが

輝いて見えます。

お洒落には乏しい清田さんですが、多少興味はあるもので、何か言いたげな顔をして、

通り過ぎていきました。


服って、高いよな。私は一銭も持ってないし、入れる筈がない。

清田さんは諦め顔で、自宅にある貯金を思い出しました。

そもそも、私があの場所に入る事が場違いかもね。

店内には、金銀のドレスを着た女性達が、優雅に歩いていました。


働いてお金を貯めないといけないんだ。


ふいに、痛いところを思い出しました。

働かざるもの食うべからず、という言葉があります。



元の世界と、ここの世界とでは、文化が確実に違うでしょう。


卿に入っては卿に従えです。

清田さんは妙な責任感を感じて、働き手が無いか探しました。


働いたら、きっと今の不安定な気分は解消される。


そんなどこから芽生えたのか分からない確信が、清田さんの行動の源になりました。


ここへ来て二日目だから、そんなことまだしなくてもいいだろうに、

と清田さんは時折冷静になりながら、とある一軒に辿りつきました。


『就職案内所』と掲げられた一軒の建物がありました。

建物は所々穴が開いて、人通りは多い道に建っているにも関わらず、誰も立ち寄ろうとはしません。

扉は硬く閉じられていて、とても新しい建物には思えませんでした。

また隣の建物である、『キッサ喫茶』とのギャップが新鮮に感じられます。


入るのに気後れする清田さんでしたが、


入らないと始まらない。


そう覚悟を決めて、重い扉を開きました。


*


カランカラン、と扉に取り付けられた、乾いた鈴の音が店内に響き渡りました。


まだ昼なのに店内は夜の様に暗く、明かりは中央に取り付けられた、淡い物だけです。

辺りを見回すと、窓は布に遮られ、申し訳程度の木洩れ日が店内を照らしています。

一歩進めば、床はぎしぎしとしなります。よく見れば、所々穴が開いていました。



「はーい」


ガラガラとしたおじさんの声が、ふいに掛かります。


「こんな所に何の用かね。お嬢ちゃん」


正面にあるカウンター奥の扉から、おじさんが姿を現しました。

煙草をすかしながら、いかにも危ない仕事をやっていそうな雰囲気を漂わせています。


これはまずいな。


と清田さんは思いましたが、


まあ、とりあえず働き口を。


とその思考はどこか抜けていました。


「珍しいお客さんだ。ここはおじさん達のたまり場だよ。」

物珍しそうにおじさんは清田さんを眺めました。


「すいません。就職案内所と聞いて来たのですが・・・・・・」

清田さんが焦った様子で鼻を掻きます。


「ここに来なくても、探せば幾つも見つかんだけどなあ」

不思議だなあ。とおじさんは小さく呟きました。

ふう、とゲップと共におじさんは息を吐きます。


「この地域に来たばかりなので、何をどうすればいいのか」


「それは大変だ。お嬢さん。ここは日雇いぐらいしか紹介できないけどいいのかい?」

そう言うと、カウンター下の棚から何やら分厚い本を取り出します。

これは危ないなあ。と時折変なことを呟きながら、おじさんはページを捲っていきました。


「ざっとこんなもんだね」


抽出されたものが、清田さんの前に差し出されます。かなりの量です。

中身は、掃除、見張り番、などなどと豊富でした。


覗き込むようにして見ると、急におじさんが閃いたように声をあげます。


「おじさんが記念に、仕事を選んであげるよ」

それはまずいのではないか、と清田さんは首を傾げます。


「いいからいいから。遠慮しなさんな」

そんな清田さんの反応に気づいたおじさんが笑いながらそう言いました。


「ここで初めての仕事なら、思い出深いものにしなくちゃいかんな」

いたずらっぽく笑うおじさんは、早々に清田さんを追い出しました。




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