1話
大学に行くということに決めて都会に出ようと思ったのはあの思い出があったのかもしれない。
山に囲まれた絵に書いたような閉塞地に住んでいた私にとって、あの今までに味わったことの無い開放感は何物にも代えがたい物であった。
右を向けば右を向け、左と命じられば左を向け、郷に入れば郷に従え。
そんな今の時代にそぐわない物が当たり前のように蔓延っていて、あの日まではそれが正解だと諒解していた。
だから、中学の夏、私の見た全てによって、私の心は今までの世界に中指を立てて騒ぎ立てる心でしか無くなっていた。
家に帰って今まで通り周りに合わせて右向け右をしても、そこに自分の意思は介在していないとに気付く。
こんなところで平和に暮らしたとしても、自分の気持ちには嘘を吐き続けているという耐え難い事実に私は息を荒くしてしまう。
だから、全速力で三年間を駆け抜けた。
親には勿論反対された。
最初の町から出ようとすらしない愚か者は、私が大学に行くために積み上げた物をぐちゃぐちゃにしようと何度もしてきた。
進路をいつの間にか変更しようとしてきたり、もし大学に行くことになってもお前には一銭もやらんと。
対抗策は努力しか無かった。
私を動かす力は、憎しみと憧れだった。
結果、私は閉鎖空間から逃げることに成功した。
脱出し、自らの生活を奪い取った後の一年を思い出しながら、トイレで嘔吐し、頭がギンギンする。
何故か吐く時に出てくる思い出はいつもそうだ、この思い出を口から吐き出してトイレに流してしまいたいと思っているのか、はたまた辛い時にこの気持ちを思い出して辛い体に辛い思い出を流し込んで正気を戻そうとしているのか。
「俺はさ〜常に親から監視されてる場所で勉強をしてこの大学に入れたんだよね〜
毒親から逃げれてほんとラッキーだわw」
外で医学部だと自慢していた誰かわからない男が豪語している。
また吐き気がしてきた。
多分酒のせいなんだろうが、少々はこのよく分からない男が恵まれた環境を、自分で勝ち取ったと甚だしい勘違いをしていることによって起こる吐き気かもしれない。
ゲロ吐いて言い訳男の自称努力話を聞き続けるのに、私は一切の魅力を感じなかった。
こんなののために一日汗をかいて働いた金が失われて行くことに憤りを感じながら家路に着く。
今回もやっぱり面白味のないものだった。
大学生があげる楽しかった思い出の1つが飲み会であったから、それに参加してみたが、結局ただの自分の思い出話という名の自慢大会だった。
馬鹿だ。
汚さの度を越えている。
しょうもない。
もっと綺麗な汚いものを期待していたのにただただしょうもない汚さが蔓延ってるだけじゃん。
頭でとにかく甲高い罵声が響く。
やっぱり鬱憤が溜まっていたのだろう。
それを感じ更に憂鬱になる。
折角大学に入ったのだから大学っぽいことをしようと思ってサークルに入った。
けどそこはサークルの本来の目的は無く、本来おまけ程度である恋愛が主となっていた。
私はそれを知った、から行くのをやめた。
理想は1つ消えた。
金は常に無かったので、バイトは必ずしていた。
勉強の他に何もすることは無かったから、バイトで隙間を埋めた。
話す程度にはバイト仲間と仲良くなったが、こんなやつと居るより、元々所属していたグループと話している方がよっぽど生産的だろう。
恥ずかしいが、私は理想の生活を手に入れてたと思ったのに、その代償に独りになってしまったらしい。
みんな、私が苦いとしか感じなかった高校時代に甘みとか酸味とか、そういうのを持っていたらしい。
その感覚が分からない私は、隔絶されていった。
でも田舎に逆戻りをするような気持ちにはなれない。
八方塞がりだった。
「はぁ…どうすれば良かったんだ?私?結局?
もっと要領よくこなせていたら高校時代を青色に染めれてたのかな?
それとも中学の頃から決めていたら?時間は余るからその間に?
そもそも青色って何?なんなのあれ?私の想像する青で合ってるの?」
なんかそれっぽい事を吐いてみた、勿論本心だが。
そういやなんか引き寄せの法則とかいう宗教論でありそうなものがあったことを思い出した。
そんな感じで私の青色を取り寄せてくるものは居ないのだろうか。
溜息が出た。




