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理由を探す話  些細な綻び

階段上からでも、みっちゃんのため息と、まるで諦めきった様な、力無い言葉が聞こえた。「…あんた、それ、誰の話してんの?」「え?だから高校の時の、」「確かに高校の時の話だわ。懐かしいわね。」「でしょ?皆で放課後、ファミレス行ったじゃない、ほら、駅前にあった。今は、ドラストになってるけど。」「…。」「それに、ゲーセンもよく行ったし、あ!カラオケで○○がいつも歌うのが、シューズの“赤い銃弾”で、ノリノリで歌うけどひどい音痴だから、いつも皆、大爆笑で」「()()()。」多分、女性の名前だろう。みっちゃんが名前を呼ぶと、女性は話を止めた。「なに?」「確かに、ファミレスでダベって、ゲーセンも行って、カラオケも行って、○○は音痴だったわ。」「懐かしいでしょ?だから、」「けれど、その場にあんたは居ないのよ?」ちらりと、たくやさんの顔を見る。しらけたような冷ややかな表情で階下を見つめている。「あんた、そのどれも、一緒に行ってないでしょ?」みっちゃんの問いに“ひとみ”と言う女性は、何も返せずに固まっている。「…はぁ。確かに、学校は同じだったけど、三年間、同じクラスになった事はないし。」みっちゃんがテーブルに寄りかかる姿が見える。「今、話したの、全部、()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

当時のみっちゃんは、新しく友達になった“幽霊”によって、知らなかった学生生活での高校男子らしい部分を知る事になった。初めて食べたファストフードは衝撃的な旨さで、初めてチャレンジした激辛カレーに3日間、尻が焼けるような痛みを味合わされ、仲間の一人が、思いを寄せる女生徒に告白し、振られ、自棄になってオールナイトで“励まして”を熱唱し、それを聞かされる仲間が次々と屍に成り果てるまでの一部始終を見る事になったのも、“幽霊”と他の仲間達と築き上げた青春の一頁なのだ。しかし、それはこの場にいるみっちゃん以外の誰も知る由はない。

「そこに、あんたは居なかったのよ。」静まりかえる店内。

ふと、部屋に置かれた時計をみると、昼の1時を過ぎている。「…たくやさん。」「なによ?」小声で話す。「腹、減りません?」「!?あんた、このシビアな空気でよくそんな事!」霞みのような声で叱責をくらう。「だぁって、腹減ってきたんすもん。」「んもうっ!静かに後退するわよ。」二人で音を殺し、ハイハイの後退をしながら二階の部屋の中心に戻る。「まぁ、私もさすがにあの女に店に居座ってられるのは不愉快だしね。」たくやさんはスマホを取り出し、電話をかけ出した。「…あ、もしもし?そろそろ仕舞いにしてくんない?腹減ったってうるさい奴がいんのよ。」どうやら電話の相手は階下にいるみっちゃんのようだ。「い、いいんすか?」自分達が二階にいるってばらしてるって事だ。「いいも何も、今日、ストーブ取りに行くって言ってあるし。ソファに、あんたの買い物袋、置いたままじゃない。」店に入ってすぐのテーブル席のソファに、買いこんだ商品でパンパンのリュックとエコバッグが置かれている。目に付けば、直ぐ様誰か居るって分かるだろう。「そういや、そっすね?」「それに、みっちゃん、わざと階段下に移動したのよ。あれ。」そりゃまたなんで。「みっちゃんからのSOSだわね。」どっちみち、頃合いを見て助け船を出す必要があった訳だ。足音に気をつけて、再び階段上を覗く。「…じゃあ、また別日に。」「絶対連絡してね。みっちゃん、既読スルーするから信用ないんだからね。」「気が向けばね。」もぅー!と、抗議の声を上げる女性を外に追いやったようだ。扉の閉まる音と、盛大な一息が重なって聞こえた。「…降りて大丈夫っすか?」恐る恐る声をかけると、階下の上がり口からみっちゃんが顔を覗かせた。「大丈夫。鍵かけて、追い出してやったわ。」「ほんと、あの女、あたし苦手だわぁ。」たくやさんと共に階段を降りる。手には冬服の入った紙袋と、小型の電気ストーブをそれぞれ持って。「あれ、エアコン、かけてます?」部屋が温い。「あー、弱めにつけてるけど。」「わぁ、冷蔵庫に入れなきゃ痛んじゃう!」慌ててエコバッグとリュックを漁る。その後ろで、みっちゃんと、たくやさんは何やらぐちゃぐちゃしゃべっている。「あんた、手、出してないわよね?」「馬鹿言わないでよ。ま、性別が違えば解らないけど。」「あんた、本命はウチの正人君なんでしょ?未成年に、気移りしてんじゃないわよ!」「ノンケに手を出す方が厄介じゃない。それに比べたら、このまま()()()()育っていけば、万が一だってあるかもよ?」「なんですってっ!?」みっちゃんのすっとんきょうな声に肉のパックを落としそうになった。「あっぶな。もー、びっくりさせないで下さいよ。」そう言ってキッチン奥の冷蔵庫に肉や魚を入れて一時避難させておく。「(こう)君、あんた、好きな子居てる?」いきなり、みっちゃんが質問してきた。「?いや、いないっすけど…。」「ほんとに?てか、恋愛対象って男?女?いや、この場合はどっちでもあるのか?」「なに言ってんすか。セクハラってやつっすか?」「い、いや違うんだけど。」「やあねぇ。おっさんは、若い子の恋愛事情が知りたいんだわ。」たくやさんの言葉に「ちょっと!たくや!」と、真っ赤なみっちゃんを見たのは楽しかった。

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