理由を探す話 あの時君は
スーパーを三軒はしごした後、商店街に立ちよった。たくやさんのご実家の花屋の前に着き、たくやさんに電話してワンコールで切る。「…お疲れぇ。」「お疲れ様です。すんません。休みの日に。」店の横にある自宅玄関扉からパーカー、ジーンズ姿のオフの日のたくやさんが出てくる。「いや、いいよ。若い学生を助けるのは、社会人の楽しみみたいなものだから。」冗談なのか本気なのか、オフのたくやさんは気力がないので判断に困る。自転車を押しながら、たくやさんの後ろをついて歩く。「荷物、乗る?」自転車のかごにも、背中のリュックにもスーパーで購入した戦利品が入っているが。「ここに。」と、自転車の荷台を指差す。「ちゃんと、荷物保定のバンドもあります。」「…ほんと逞しいよね、あんた。」さらりと髪を耳にかけながら小さく笑うたくやさんに、道行く女性が頬を染める。「いや、正直助かります。リサイクルショップで買おうと思ってたんすよ。」そう話している内に着いたのは『ぷいぷい』。たくやさんが鍵を開け、中に入っていく。自分も自転車を止め、中に入り、買った物がぎっちり入ったエコバッグとカバンをソファに仮置く。と、「ちょっと、上がって手伝って。」二階からたくやさんに呼ばれ、一応防犯の為、ドアに鍵をかける。「ありましたか?」二階に上がってみると、たくやさんが山と積まれた荷物の中から、冬服の入ったブランド店の紙袋を2つ掘り起こしていた。「多分、ここいらに、小さな電気ストーブもあるから、出したいのよ。」いつの間にかオネエ言葉が出てきている。「…自分が言うのもなんなんすけど、もう少し片付けましょうよ?」手前の積み上がった座布団をよける。「二階の床が抜けたら、一階の天井が抜けるんすよ?」「解ってるわよ!けど、荷物がどんどん増えるのよ。」でっかい、布団の収納バッグが出てきたので横に寄せる。多分、大晦日に必要になるやつだ。バッグ、アウター、インナー、パンツに靴下。ハンカチにネクタイ、アクセサリーに香水。箱に入り、紙袋に入ったままの物を並べ、整理していく。「あ、あったわ。これこれ。」たくやさんは、小型の電気ストーブを二台掘り起こした。「一台は、カウンターの中に置くのよ。足元が寒いからね。」「じゃあなんで、二台もあるんすか?」雑巾で表面の埃と汚れを拭きながら聞く。「みっちゃんがビンゴゲームで当てたの。トイレに置こうとしたんだけど、コンセント差したらヒューズが飛んじゃって。」言いながら、たくやさんはまだ手を動かして他のものを探している。「あった。幸君、悪いけどこれ。コインランドリーで洗ってきてくんない?慌てないからさ。」ゴミ袋に畳んで入れられていたのは電気毛布が数枚。「え、洗って大丈夫なんすか?」「って書いてたけど…。」二人で洗濯タグを探して読む。「…乾燥は無理っすね。」「敷地内で干せる?」「それは大丈夫っす。」ガサガサと袋に戻していた時、唐突に手を掴まれた。「どしたん!?」「しっ!」直ぐ目の前にたくやさんのまつ毛の長い、切れ長な目があってどぎまぎしてしまった。が、「誰か来たみたい。」たくやさんがささやく。確かに、一階から人の気配、しかも話声が。静かに目配せして、音を立てずに階段上に移動する。聞こえてきたのはみっちゃんの声だ。
「…だから、あまり派手にしなくていいじゃない。」「でも、久しぶりに会ったんだし。せっかくなら楽しくしたいじゃない。」「あいつの奥さん、妊娠してんのよ?いくらなんでも…」「平気だって。嫌なら別に奥さんが参加しなきゃいいって話じゃない。」「あんた…!!」なんだか、雲行きが怪しい。「…あの女だわ。」耳元でたくやさんが呟く。「えっと、みっちゃんの同級生の?」たくやさんが頷く。「あの女、まだしつこくしがみついてんの?」下からは、徐々に荒い言葉になっていくみっちゃんと、スルリヌルリと、意味の分からない言葉で論点をずらす女のやり取りが聞こえてくる。「いい加減にしてよ。私は今が一番楽しいし、自分に正直に生きてんの。だから邪魔しないで。」「そう思う事の方が楽だからでしょ?けど、どんなに逃げたって、現実は変えられないじゃない。」バンッとテーブルを叩くみっちゃんが微かに階段上から見えた。「…久しぶりに、同級生が集まるから、あたしも水を差す真似はしたくなかったんだけど…。」静かに怒気を孕んだみっちゃんのいつもより低い声が、場を震わす。「…あんた、祝う気がないなら来なくていい。今すぐ帰れ。」「ちょっと、自棄にならないでよ。図星でしょ?私はただ、元に戻って欲しいのよ。あの頃みたいに。」だって楽しかったじゃない。皆、笑顔で仲良くてさ。先生に注意されそうになったら慌てて逃げて。女性はつらつらと学生時代の思い出を吐き出していく。「だいぶ、仲良かったんすね。男子生徒に混じって泥でまみれて叱られる事をするなんて。」「…どうかしら…。」たくやさんは苦い顔をする。




