その時の話 人の裏、表
いつも通りに「ぷいぷい」でバイトして、帰宅して、夕食を食べた後、コインランドリーで店番がてら勉強していた。髪が邪魔になってきて、今までベリーショートにしていた身としては、切るのが勿体ないような、しかし、生活に支障が出てきている事を考えると…。と、年頃らしい悩みを繰り広げていた時だ。コンコンと、管理人窓口のアクリル扉を叩く人がいた。「はい、どうしました?」小さなアクリル窓を開けて尋ねる。「すみません、お札、入れたんですけど、両替の小銭が出なくて。返却レバーを押しても返ってこないんです。」見た目が若い、人の良さそうな男性が困り顔で言ってきた。「判りました、少々お待ち下さい。」そう言ってアクリル窓を閉めると、相手から見えない所で、先に内線を取る。「あら、どうしたの?」受話器に出たのはゆり子さんだ。「両替機の不良です。みっちゃんしか触れないのでお願いします。」「了解。すぐ行って貰うわね。」と確認の後受話器を置く。そして、管理人専用扉を開けて、先ほどの男性に対応する。「すみません、ご迷惑をかけます。すぐに直しますから。」「いえ、大丈夫ですよ。」にこやかな男性は気にしないと、手を振る。「洗濯物はどちらに?よろしければ、先に洗いにかけますか?」男性の手元を見る。小さなビニール袋しか持っていない。「あ、今、回してますから。」確かに洗濯機は、3台稼働している。しかし…。「まだ、洗濯が終わるまで時間がかかりますね。この間にご予定などございますか?」「いや、まぁ。」男性の様子が少し変わる。「洗濯が終わるまでには両替機の修理も終わっていますでしょうから。すみませんね、お時間取らせてしまい。なんでしたら、お洗濯終わりましたらご連絡差し上げます。その時には、両替機のお代もお返しいたしますので、ご連絡先をお教え願えますか?」男の顔が歪む。「はぁ?なんで連絡先を教えなきゃならねぇんだよ?」「直りましたら、ご連絡させて頂きます。あ、別に個人情報が知りたい訳じゃありませんよ。ただ、あと30分位は洗濯機も止まりませんし。電話番号も、店の番号ですし、ネットですぐに出ますから。心配要りませんよ。」「うるせぇな。早く両替機を直せって言ってんだよ。直せないなら、今すぐ入れた金、返せっての。何ごちゃごちゃ言ってんだよ。」本性が出てきた。「只今、係の者が来ますから。」「てめえ、ふざけんなよっ!」相手の手が出る寸前、「お待たせしましたぁ~。」と、扉を開けて出てきたみっちゃん。ぴったりフィットの長袖シャツにぴったりジーンズ、そしてお料理する時の必需品、フリフリエプロンを着けての登場だ。「うっ…あ、あんた何っ!?」二度見必須の容貌のみっちゃんに、男は少したじろぐ。「ここのオーナー兼修理屋ですぅ。両替機が返金しないんですよね?」「あ、ああ。札を入れたのに小銭も出ねぇし、札も却ってこない。」「幾らのお札?」「えっ?」「万札?千円札?」男が、質問に窮した。「あ、えっと、ま、万札…。」「あら。うちの両替機、万札は対応してないわよ?」ずいっと厚い胸板を反らし、有無を言わさない勢いで、「若い従業員、だまくらかして小銭稼ごうたぁどういった了見だ!ぁあっ!?」野太い声が辺りにビリビリ響き渡った。
「凄い迫力だよねぇ。」後から追い付いた正人さんが染み込むように呟く。男は、脱兎の字の如く、跳ぶように逃げ去っていった。「何よ、こんな幼気な美人をみて、逃げるだなんて。」みっちゃんはプリプリしながら管理人室に入り、防犯カメラの映像を確認。男の顔が良く判る一枚を選ると拡大コピーし、“ブラックリスト”に貼る。そして、「せこい両替詐欺男」と、銘打った。「ブラックリストが順調に増えますね。」ファイルを棚に戻しながら、「ほんと、どんなに顔が好みでも、中身があれじゃあ、たつもんもたたないわ。」ふぅーっと長いため息を吐くみっちゃん。「「…。」」自分と正人さんは、ただ黙るしかなかった。
自室に戻り、部屋の電気を点ける。「っおぉ?!」人影が項垂れるように部屋の真ん中で浮いていたので“まさか”とびびったが、よくみると「お前かよ。」見慣れた幽霊だった。「どうした?帰ったんじゃないのか?」なにやら、しょぼくれている。「あかんかった…。」消え入りそうな声で呟く。「えっ!体の方、死んじゃったのか!?」首を横に振る幽霊。「じゃあ、入らなかったのか?」こくん、と力なく頷く。「どういうことだ?あれ、お前じゃないのか?」激しく頭を横に振る。「喋らんと解らんぞ。」ショックを受けるのは勝手だが、それに付き合ってばかりもいられない。暖房をつけ、風呂に入る準備をする。幽霊は微動だにせず。風呂から出ても、歯を磨いて、化粧水をはたいていても、何も言わず浮いてるだけ。電気を消して布団に入った。「…ちょっとは心配はしてもええんちゃう?」さすがに不満を漏らしてきたが、「なら、さっさと喋れ。」横になったら、すぐに寝落ちしてしまうので体を起こす。生きている自分は、明日も忙しいのだ。
ちょっと、投稿遅れてます。すみませんm(._.)m




