恋の話 真綿色
あれから暫く経ち、いまだに担任の野村が学校に来ない中、学年主任から期末テストの予定が発表され、いよいよ一週間後には二学期期末テストである。「文化祭や他の行事もあったりして忙しかったけど、しっかり赤点は回避出来るよう、日々の努力は続けていたよね?」「お、おう。」「歯切れ悪いなぁ。」「ほんと、赤点だけは止めてね。」自分と朋ちゃんにこてんぱんに言われながらリンダは寮に、朋ちゃんはバス停へ。自分は自転車に乗って“ぷいぷい”までの道を急ぐ。肌寒くはなりつつも、土地柄なのか昨今の温暖化の影響か、マフラーや手袋はまだ出番がない。それでも、コンビニでは肉まんやおでんがカウンター上に並び、スーパーでは夏に良く売れた冷却用品がセールになって店の端に追いやられている。“呑たろ横丁”の近くまで来た時だ。すれ違いにみっちゃんを見た気がして、自転車を止めそちらを確認する。やはり、みっちゃん。だけど、きっちりしたスーツに、“男”らしさというか、ちゃんと男性として歩いている。その横には小綺麗な女性が並んで歩いている。知り合いらしく、会話は聞こえないがフランクな間柄のようだ。「…おぉ。」なんだか、みっちゃんが真面目過ぎて、逆に面白い。「お前、面白いって言いながら真顔なん、何?」幽霊が腹の中で思った事にちゃちゃを入れる。「…ま、プライベートだから、気付かない振りがマナーだよね。」再び自転車を漕いで“ぷいぷい”へと向かう。
「だいぶ髪、伸びたわね。」着替えてメイクして店に降りていくと、たくやさんが自分の頭をみて言った。「伸びたら、意外におしゃれでびっくりっす。」中間テスト終わりに、羽目を外してヘアカラースプレーを使用後、髪が謎の脱色をおこして斑になってしまった。あれから短く刈る為に伸ばしていたのだが(丸坊主はさすがに周りからストップがかかった)上手くメッシュが入ったように見えて、最近は「このまま伸ばそうか。」と考え出している。今はマッシュ位に伸びて中性的な容姿に。予備の黒髪パッツン超ロングのウィッグも、今はキレイにして仕舞われている。「そろそろ“幸君”は卒業っすかね。」みっちゃんの設定はややこしい。「あら、つまんないわね。」じんさんがおでんを仕込みながら話に加わる。毎日代わる一品しかない肴が美味しいと、最近若い子の客が増えているらしい。みっちゃん達は店ではきれいなオネエさんだから、元々の姿で店には立たない。その姿で店に立てば、たちまち人気店になるだろうけど、それは本人達の意とするところではないから。「一応、SNSに載せない、写真撮らないように注意はしてるんだけどねぇ。」たくやさんがぼやく。人の口に戸は立たず。場末の飲み屋の一角、オカマが営むスナックに若いお姉ちゃんが押し寄せるようになった日には「やってらんないわよっ!」って、三人揃って店を畳む所存だそう。ただし、“いい男なら相談可”。 人は“欲”でしか動かないのだと学んだ一例となった。
「そっか、もうそんな時期だ。」夜になって気温が下がりジャージを一枚上に羽織って階段を降りかけた時、下から上がってきた正人さんに鉢合わせた。そこで世間話を少ししていたのだが「…テスト終わったら冬休みだよね。幸君、お盆も帰らなかったし、さすがに年末は帰る?」「どーすかね?親は新婚なんで、あまり邪魔したくないんすよね。」てか、関わりたくないが正解なんだけど。「何も言ってこないの?」「そっすね。今はほら、学校の振り込み内容とか行事説明とか、親のスマホに届くんすよ。だからいちいち説明も要らないし。たまに『どう?』ってくるんで『生きてる』って返してます。」「はぁー、僕らの時代とは全く違ってびっくりするよ。」「夏と同じ、バイトして勉強してたまに友達に会うって位っすねぇ。」「…そっか。」なんだか正人さんが思案顔だが、「じゃ、晩御飯食べて来ます。」と、階段を下りる。「うん、おやすみー。」正人さんは自室へと帰っていった。「なんやろな?最近、あの兄さん、色々気にかけてくれてないか?」幽霊が話す。「自分の家庭環境を不憫に思ってくれてんのかもね。」中学にもいたなぁ。「困った事があったら言ってね。」とは言ってるけど、目が面白がってるやつ。哀れんでいるやつ。正人さんはどちらでもない気がするんだけど「大人は嘘が上手いからなぁ。」「なんやそれ、えらいマセた物言いやな。」幽霊はニヤニヤしながらからかってくる。こいつも、そろそろなんとかしてやらねぇと。みっちゃんの部屋に「お邪魔しまっす。」と声をかけながら入る。「今日は、湯豆腐とエビワンタン。肌寒いもんね。」「唐揚げはたっくんのリクエストなのよ。」ゆり子さんとみっちゃんが、メニューを言いながら立ち回っている。ここあさんは、たっくんに湯豆腐をフーフーして皿に取り分けている。 他のどこに帰ると言うのか。




