祭りの話 担ぎ手は何を見ているか
彼女はやはり、長身の広川少年の姉だった。長身の弟と違い、女性の平均身長からみてもやや小柄だが、目元がよく似ていた。「あの…。」「あん、慌てなくていいのよ。」店のドアを開けて彼女の姿を視認した瞬間に、たくやさんは目にも止まらぬ速さで彼女の背後に周り、店に押し入れた。階段を上がりかけていたじんさんは、すかさず椅子をひき彼女を座らせ、まるで、アニメの一コマをみているような、一瞬の出来事だった。そして、先ほどのやり取り。「あんた、広川さんでしょ?」たくやさんに聞かれ、びっくりした広川姉。「えっ!なんで知ってるんですか?!」「あんたの弟から聞いたからよ。」正しくは『弟から聞いた話を聞いた。』が正解。「弟が…?」「自転車見て、入って来たんでしょ?」たくやさんが外を指差す。自分の自転車は店と店の間の狭い隙間に差し込む様に停めている。袋小路になっている“呑んたろ横丁”なら、メイン道路から見ても気にならないし、邪魔にもならない、盗む阿呆もいない。しかし、彼女は目的があって、結果見つけてやってきたのだ。状況についていけてなかった彼女は、はたと「あの、急にすみません、私、○○大学一年の広川と言います!」と、学生証を提示する。とりあえず、身分を証した広川姉。「不躾にすみません。こちらに、あの自転車の持ち主の方はいらっしゃいますか?」じんさんも、たくやさんもこちらを見ない。あえて見ない。「あの自転車、借り物なのよ。」「えっ?」「知り合いのところのやつ。」「弟から聞いたってのも、それなの。あんた、無駄足踏んでんのよ。」二人は流れる水のごとく、本当の様にウソをつく。「では、私が探している男性は“たまたまこの店に寄った、短期滞在の人”って事ですか?」「そうなんじゃない?」「じゃあ、連絡先とかも…。」「さすがに個人情報を教えられないわよ。それに、“素敵な街人”に、たまたま来ていたバックパッカーみたいな人、載せらんないでしょ?」広川姉、ぼーぜんとしている。「サービス。」たくやさんが、彼女の前に先ほどの具沢山味噌汁をお椀に入れて割りばしと共に置いた。「美味しいって評判なのよ。」「あ…。ありがとうございます。頂きます。」ふーふーと、冷ましながら一口、汁を口に含んだあとは割りばしで休みなく具材を運び入れていく。あっと言う間に食べ終わると、広川姉、ほろほろと泣き出した。「あらやだ。」「ちょっと、大丈夫?」ティッシュの箱を彼女の前におく。「す、すびばぜん。ちょっと、まいっちゃっでで。」鼻が詰まって何言ってんのか。「わ、私、ゼミで、不安で。なんとか、その人を探しで、しのはらさんに喜んで欲しぐで。」ティッシュで涙と鼻水を拭きながら、広川姉は話す。「…。しのはら…?」たくやさんが、方眉をあげる。「はい、ずっ。私、人づきあいが、ぐずっ苦手で。大学でも、ボッチ確定で。ずびっ、でも、しのはらさんに声かけてもらって、ゼミも入って。」「それで?」「いい人なんです、しのはらさん。ずっ。彼女、ゼミの企画にも、積極的に取り組んでて。私、役に立ちだぐて。ぐすっ。」「ほぉん。」「彼女、大学の近くの駅周辺で探してたんです。企画に合った人。」「ふんふん。」「そしたら、格好いいお兄さん、見つけて。思わず写メ撮ったって。見せてくれて。」「あらぁ。」「大学の生徒じゃないみたいで。そしたら、知ってる人がいて。その人のバイト仲間だって。」「まぁ。」「しのはらさん、バイト先、聞いてなかったんですが、たまたま友達のマンションに泊まった日の朝、その近くのコンビニに行ったら、いてたらしくて。」「運命的じゃない?」「ですよね!」はい、お気づきですね。じんさんとたくやさん、笑いたいの我慢してます。自分、知らんぷりしてカウンター内で菓子皿にお酒のつまみ用に豆菓子、入れてます。ちゃんと仕事してますよ。「けど、彼女、シャイで。話しかけられなくて、逃げちゃったって。だから、私、見つけてあげたくて。最寄り駅だから、直ぐに見つかると思ってたんです。」ぐしゃっと顔が歪む。涙があとからあとから溢れる。「もう、泣かないでよ。」じんさんは、ティッシュを数枚束ね、彼女の涙と鼻を拭く。「ずびばでん。」彼女の様子を見ていて、勝手に広川少年の心情を思う。コミュ障の姉がやる気出して人探しして、しかも、自分の学校の生徒と関わりあるかもしれないとなったら、協力してやりたくなったのかな。と、誰目線だよって話だけど。




