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魚釣りの話 粘りづよく待ちましょう。

若い子向けの店が並ぶ道を過ぎ、あえて裏にまわるみっちゃん達。「あれ、どこに行くんすか?」薄暗い道にさすがに不安を覚える。たくやさんが「大丈夫。挨拶しに行くんだよ。」と、手をつないでくれる。自分、妹、いや弟として扱われてるなぁ。実質、一番下っ端だからな。16歳のガキと20ピー歳のオネエさんだ。いや、お兄さん…。混乱するな。うん。

着いたのは、自分たちの店がある“呑んたろ横丁”のような、飲み屋やスナックが並ぶ路地。「礼儀正しくね。」じんさんが、少し緊張気味に言う。ドアについたノッカーを叩くと中から少ししわがれた声で返事が返ってきた。「ママぁ、ご無沙汰~。」みっちゃんがドアを開け、中に入ると「あら、みつのり~。なによ、びっくりするじゃな~い!」ぎゅうぎゅうと抱き合う二人。こちらからだと、しっかりおじさんの声の“おばさん”が真っ赤な爪の手でみっちゃんの横っ腹にしがみついているように見える。「あら、若い子連れて。しかも、今日はえらい男前じゃない。なに、味見させてくれんの?」カウンターの中にいたもう一人のつけまつ毛がバサバサな“おばさん”がタバコの煙を吹きながら、自分たちを品定めする様にみる。「やだ、“れいこさん”たら。あたし達よ。」「お久しぶりです。」「あら、じんとたくや?そんな格好、初めて見たわ。」“れいこさん”とやらは、じんさんとたくやさんも知ってるようだ。「ママ、この子、最近バイトで来て貰ってるんだけど。」と、みっちゃんが熱い包容を終え、先ほどの赤爪のおばさんに自分を紹介する。「あら、女の子?」すげぇ。良く判ったな。「杉本幸(ゆき)です。店では、(こう)って名前で男装して働かせて貰ってます。」頭を下げる。「あら、良い子じゃない。けど、こちらの組合じゃないでしょ?」組合?「ちょっと訳ありなのよ。」みっちゃんがウインクする。「まぁ、あんたが雇ってるんだから別にいいけど。で、今日はどうしたの?」ママはどかっと、赤いふかふかのソファに座り煙草を持つ。すかさず、じんさんがライターで火をつけ、たくやさんが灰皿を持ってくる。映画のようだ。と、感心していたら「ちょっと。」と、カウンターの中の“れいこさん”に「これ。」と、盆の上に載ったティーカップ2つを渡される。受け取り、まずは赤い爪のママの前に。コースターをひき、カップを乗せる。取っては煙草を持っていない方に。それからもうひとつをみっちゃんの前に。「はい、ご苦労様。」盆を“れいこさん”に返すと、ニヤリと笑って労いの言葉をかけてくれた。?が顔に浮かんでいたんだろう。「あんたはここに座ってなさい。」と、若干優しい声になりカウンターの椅子を差してくれたので、「は、失礼します。」と、腰かけた。みっちゃん達と赤い爪のママは何やら話ているが解らない。「あんた、まだ若いんでしょ?」“れいこさん”がサイフォンで湯を沸かしながら聞いてきた。「あ、16歳で高一です。」「あら、学生さん?」「はい、みっちゃんのアパートに入ってるんですが、私情でお金が要るんで「ぷいぷい」で開店前の掃除や買い出しとかの雑用させて貰ってるんです。」「なるほどね。だから。」なにが「なるほど」なのか解らない。さっきから?ばっかりだ。コポコポとサイフォンに湯が上がり、砕かれたコーヒー豆が舞う。“れいこさん”が、アルコールランプを消すと静かに湯が降りてくる。「良い香りです。」「あんた、コーヒー好き?」「好きですが、インスタントばっかりです。たまに、ドリップのやつで贅沢を味わってる位で。」「まぁ、学生でお金がないとそうよね。」“れいこさん”は嬉しそうにコーヒーカップにコーヒーを入れ、「はい、どうぞ。」と、出してくれた。はぁ、良い香り。「頂きます。」熱いのでそうっと口に運ぶ。「美味しい…!」砂糖も入ってないのに、ほんのり甘味があるようだ。スッキリして後味も苦味がない。至福~。「やだ、あんた、ほんっと、良い子なのねぇ。」“れいこさん”がニコニコと笑って「これも食べな。」と、クッキーを出してくれた。「わぁ、ありがとうございます。頂きます。」なに、めっちゃ良いおばさん(おじさんだけど)じゃないかぁ。「あんた、餌付けされてんじゃないわよ。」じんさんが、後ろに立っている。「あんたも要る?」「ありがとうございます。頂きます。」じんさんが隣に座る。みっちゃんとたくやさんは、まだ赤い爪のおばさんと話をしている。「この子、ほんとにあんた達の店で働いてるの?全然すれてないじゃない。」「どー言う意味よ。私達だって素直で良い子じゃない。」「“自分の欲望に”素直で“調子の”良い子って事なら合ってるわよ。」「酷いわぁ、人をなんだと思ってんのよ。」文句を言いながら出されたコーヒーを飲む。「“としこママ”も、“れいこさん”も変わらずで、良かったわ。」じんさんがカップをソーサーに置きながら話す。赤い爪のおばさんは“としこ”さんと言うのか。「あんた、同じ街に住んでんだから、もっと顔見せなさいよ。」“れいこさん”がタバコをふかしながら言う。「近いほど行かないものじゃない。富士山も、世界遺産も。」言い得て妙。

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