試練の話 自分以外が渦の中
「お疲れ様です。」隣のbarの裏口を出て「ぷいぷい」の裏口から入ると、たくやさんもじんさんも完璧にメイクと衣装を終えていた。「さっきの…ってあれ?今日、早く準備する予定でしたっけ?」うっかり遅刻したか、心配していたが「ううん、何もないわよ。」「わたし達、早く着いちゃっから先に化粧したのよ。」最近はだいぶ涼しくなり、汗で化粧が流れたりウィッグの中が蒸れて悲惨、という事も減った為早くに化粧するのも解るのだが。「ちょっとぉ、何よ。その目。」じんさんが皿を洗いながら言う。なんだか胡散臭い。「着替えてきまーす。」と二階に上がる。「何があったんやろな?」珍しく店内で幽霊が話しかけてきた。「うーん、新しいスタッフの面接とか?」けど、自分に内緒にする事かな?まさか、クビか?「いや、ないやろ。」幽霊が否定してくれたが可能性が0(ゼロ)と言う訳ではない。自分がくるまではじんさん、たくやさん、みっちゃんで廻してたんだから。もんもんと考えていると「おい、雄々しくなってるで。」メイクが濃くなってしまった。はぁ。
階下に降りるとみっちゃんも来て三人で話しをしていた。半袖のキャラクターTシャツを筋肉質な体に張り付くように着ているみっちゃんは、涼しくなった外気に反して室温を上げている原因だ。「あ、お疲れ様です。」挨拶すると、「一応、幸君も聞いておいて。」と、手招きする。何事かと聞くと「今日、バイトの面接があったのよ。」ガーン…!「自分、クビっすか…?」「違う違う。こっちサイドのバイトよ。」つまり、「女装してお客さんの相手をする人。だから、私達、早くに来て着替えから何から済ませてたのよ。」「あ、そうだったんすね。」興味本位で来られても迷惑だし、実際見たらイメージしやすいでしょ。でも、今日、バイトの面接にきた奴ときたら。と、じんさんがぷりぷり怒りだした。「騙されたのよ。」「?」たくやさんが引き継いで話してくれたのだが、まず、働きたいと連絡が入る。別に今は求人を出していないが特殊な仕事な為、急な欠勤が出ると代えが利かない。(先日、みっちゃんはケガで休んだし)。若い人みたいだし一応面接だけでもしておこう。で、今日、面接に来た男性が、面接が始まって早々に「男を出せって言うのよ!」?「男、ですか。」「そう、男。」いますよ、目の前に。心は大和撫子、身体は日本武尊が二人も。しかし、違うと言って聞かない。なんにせよ、バイトの面接に来た訳でなく冷やかしか嫌がらせか。と、なったのだが「あんまりしつこいんで、証拠、見せつけてやったら慌てて逃げていったわよ。」じんさんとたくやさんが誇らしく胸を張っているが、証拠って…?「聞かん方がええ。」こそっと幽霊がつぶやいた。
「もしかしたら、幸君を指してるのかもしれないし。気をつけてね。」みっちゃんが心配な顔を向けてくる。なんだか、最近多いなぁ、こんなトラブル。
「やぁねぇ、最近、こんな色恋沙汰ばかりで。」みっちゃんと、考えが被ってしまった。いつもは明るい店内が、少し影ったように思った。




