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ちょっと先に進んだ話 はみ出し者が集うアパートの店子

みっちゃんは、ちゃぶ台の空いたスペースに、同じく目玉焼き、ウインナー、トマトの乗った皿を3枚セットし、味噌汁も並べていく。“自分”は、テレビの天気予報と時刻を気にしながらご飯を頬張る。

「おはようさん。ちょっと遅くなったかしら。」“ゆり子さん”が“たっくん”を伴って入ってきた。「おはようございます。」「おはよう!ゆりちゃん、たっくん♡」ジャストタイミングよん。と、沢庵が盛られた鉢をちゃぶ台の真ん中に置きながらみっちゃんが答えた。「たっくん、おはようは?」“ゆり子さん”が座りながら促すと、小さな声で「…みっちゃん、さっちゃん、おはようございます」と挨拶してくれた。「ああん!挨拶出来た賢い子にはオマケ♪」みっちゃんはウキウキと、冷蔵庫から小さなタッパーを持ってきて蓋をあけると、ブドウを一粒、“たっくん”の口に入れた。

「今日のおやつ。まだ冷えてないから今一つかしら。」タッパーを冷蔵庫に終いながら“たっくん”の様子を気にかけるみっちゃん。“たっくん”は無邪気な笑顔を浮かべ、ゆり子さんの隣に座った。その隣にみっちゃんが座り、「頂きます。」と三人仲良く手を合わせていた。

「あのブドウ、どうしたの?」「あぁ、お客さんが持って来てくれたの。ほら、泉さんとこの三男坊。」「あ、農家の泉さん?あそこ、小松菜作ってなかった?」「色々試してるんだって。ほら、若い子にウケが良いから。」“ゆり子さん”とみっちゃんが話しだすと、途端に賑やかになる。飾らない、遠慮もないまるっきり親子の会話。

最後に汁椀に残ったあおさを飲み干し、「ご馳走様でした。」と、皿を流し台に運ぶ。「洗っとくから、お弁当、お願いね。」みっちゃんの指示にうなずき、「行ってきます。」と、正人さんの弁当片手に部屋を出た。外階段を上がってちょうど、正人さんが部屋から出てきていた。「正人さん、弁当。」「あ、ありがと!取りに寄る手間が省けた。」にかっと笑う正人さんは、下手したら“自分”と同じ高校生に見えてしまう。「じゃ、行ってきます。」と、今“自分”が上がってきた階段ではなく、自室横の外階段を下りていく。その下が駐輪場なのでバイク通勤の正人さんが、みっちゃんの部屋に寄るのは遠回りになる。さて、“自分”も用意をせねば。踵を返し自室に入る。「ふぁ…。おはようさん。もう学校(ガッコ)の時間か。」部屋の真ん中で浮きながら寝そべったまま、幽霊が声をかけてきた。

幽霊が浮いている真下の一人用のテーブル(冬はこたつになるやつ。)に、どかっとメイクボックスを置く。「お、始まるな!」声を弾ませる幽霊をひとにらみすると、作業を始める。

アパートをいつも出る時間ぴったりに、自室の鍵を閉め、指定鞄を持ち階段を下りる。下に着くと同時にみっちゃんが部屋から出てきて、「はい、これさっちゃんの分よ。」と弁当を渡してくれた。

「ありがと、行ってきます!」「はーい、気をつけて。いってらっしゃい。」

自転車に股がり、制服のスカートをなびかせ、肩で切り揃えた黒髪にヘルメット。20分、自転車を漕げば自分が通う県立高校にたどり着く。靴は履き替えないまま、教室へ向かう。「おはよう、朋ちゃん。」「おはよう、“ゆき”ちゃん。」課題終わったー?こないだの、提出いつだっけ。あ、リンダ。今日、部活さぁ。

隣の席の朋華ちゃん、前の席の鈴田(リンダ)、回りは今日も賑やかだ。

「杉本、ノート見して。」リンダがこちらに体を向ける。でけぇ体躯は高1にして、陸上の全国大会に出る程の力量を物語っている。男子砲丸投げの選手だ。

「あ、次あーし。」隣の朋ちゃんは陸上のマネージャー。小柄で福福したハムスターの様な彼女。「あんまり、書きこんでないんよ。寝てたし。」ノートを広げながら答える。当てはまる言葉を書きなさい、と言う虫食い問題。「三人の合わせたら埋るんじゃね?」「あんた、真っ白じゃん。」普通の朝、普通のスクールライフ。あぁ、素晴らしい。6月、梅雨はまだ来なさそうだ。気持ち良い風が入ってくる。「…だよねぇ、ゆきちゃん。」「あ、聞いてなかった。」「えぇー!」

杉本 (ゆき)。16歳、女子高生。これが“自分”の一つ目の顔である。

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