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試練の話 乗り越えられない壁は迂回した方が良い

『急に手紙を書いて、すみません。』から始まるそれは、なんか丸い字で、シールやキラキラのインクペンでデコられて、何か甘い匂いがする。「小学生の女の子がこういう手紙、授業中に回してたよなぁ。」幽霊が呟く。「よく知ってんな。」「やっぱ、最近記憶がはっきりしてきたな。お前と喋ってるから“生きてる人間”の頃の事が戻ってきたんかも。」いい傾向だな。そのまま全て思い出してくれたら、話しは早いんだけどな。

手紙に目を戻す。どうやら、手紙の主は自分ではなく“(こう)”に宛てて書いているようだ。なら、なぜ自分の自転車のかごに入っていたのか。単純に、この自転車で走る姿を目撃し、別日に同じ高校に通う女子生徒が同じ自転車に乗っている事に気付き、『兄妹(きょうだい)』であると推測。妹さんには悪いがメッセンジャーになって貰った(勝手に託された)とある。「なかなか香ばしい内容ですな。」「焼けすぎて焦げてんちゃうか?」とりあえず手紙は元に戻し、学校へ。しかし

道中考えるのは差出人が書いてなかった事。内容はズバリのラブレターだが、自分が知らない人が自分を見ていると言うのは、以前の取り憑かれた高2女子の時と同じ、得体の知れない物への恐怖がある。「ほっといたら向こうから動くやろ。気にせんとしっかり勉強しぃ。」並走して(?)幽霊が声をかけてくる。その姿はさながら、ダーリンお仕置きだっちゃ。


今日は部活のミーティング日だそうで、勉強は各々する事に。昨日の勉強範囲を昼休みに朋ちゃんと手分けして丸つけし、次の内容をチェックして指示する。「塾の講師で仕事しようかしら。」「バイト代が出てもおかしくない働きだよね。」「ほんと、助かってるから。テスト結果が出たら俺たち、何か奢る。」「マジで。」「あまり、高いのは無理だけど。」三人は手をすり、ゴマすり、すり寄ってくる。「ええいっ!暑苦しい!男臭い!()が高い!」朋ちゃんは、いつの間にお奉行様になったのか。「けど、私達も助かってるよ。」「家だとつい、気が散っちゃうし。」と、反対サイドの席でお昼を食べていた女子グループが参加してきた。「お互い、教え合う機会もなかったし。」「それぞれの得意分野が違うと一緒に勉強するの気を使うもんね。」「川田さんも杉本さんも、教えるの上手だし。」「あら、いつでも交代したげるよ♡」あはは「やだー。ムリー♪」笑うお嬢さん達を見る朋ちゃんの笑顔は目がマジだった。


放課後、自転車置場を遠目で確認してから近寄る。「不審な生徒は見んかったで。」と、幽霊が現れ見張りの結果報告をしてくれた。とりあえず、学校から出る。しかし、このまま「ぷいぷい」に向かっていいものか。悩みながら商店街近くまで来てしまった。すると、「おーい。ゆーきちゃーん。」と、声がする。自転車を止めそちらを向くと、大根片手に笑顔で手を振るここあさんだった。


「じゃあ、借りていくね。」「はい、気をつけて。」ここあさんはかごいっぱいに大根を載せ、快走し去っていった。頭に高校のヘルメットをかぶって。ここからは歩いても「ぷいぷい」まで目と鼻の先。幽霊が周りをキョロキョロしながらついてくるが異常はないようだ。「なんか、こんな事ばかりで嫌になるな。」「まぁ、田舎と都会の間みたいな街やから、刺激を求めてんのかしらんな。」「何を根拠に…。」ぶつぶつと文句をいいながら、「ぷいぷい」に着く。ドアを開ける前に中から声が聞こえる。あれ、じんさん?たくやさんも。あと、誰か知らない人だ。なんだかややこしい雰囲気を察知して、隣のbarに逃げこむ。「あら、(ゆき)ちゃん、いらっしゃい。」「すみません、お邪魔します。」70オーバーのママさんは、いつもキレイに髪を結い、小綺麗で上品だ。肌も艶々している。「なんか、お客さんですかね?揉めてるみたいで。裏、使わせて貰っていいですか?」と、聞くと「直ぐ出て行くわよ。それまで休んでいったらいいわ。」おごり♪と言って、グラスに氷を入れている。「わぁ、ありがとうございます。」カウンターの椅子に座る。カバンは足元のカゴ。こういう気遣いがママらしい。

「はい、裏メニューのクリームソーダ。」「はぁー、ブルーなんですね。」クリームソーダと言えばメロンのグリーンを想像していたが、ママのクリームソーダはブルー。「ブルーハワイのシロップなのよ。」単純にかき氷シロップで味と色を着けているって訳なんだろうけど、。「頂きます。」とストローで一口飲むと、「わ、パイナップルだ!」「うふふ、ちょっと他にないでしょ?」なんて話しをしていると、隣から男性が出ていく姿が店のドアの曇りガラス越しに映る。「飲みきるまでゆっくりしていきなさいな。」「連絡だけ入れておきます。」と、LINEを送る。「モテるのも考えものよね。若い頃は、周りが見えなくなるから無茶をやりがちだもの。自分が主人公になっちゃうのよ。」「ママも何かしらありましたか。」「話したらキリがないわね。」ママは、テーブルに置かれた観葉植物の葉を拭きながら、うふふと笑う。この魅力は「ぷいぷい」のスタッフにはない。この『呑んたろ横丁』で働く人間の“皆のママ”なのだ。

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