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試練の話 準備の段階から始まっている。

「僕、煮物が苦手だったんだけど、ここで食べれる様になったんだよね。」正人さんがカボチャの煮物をパクりと頬張る。「まぁ、野菜が多く使われてますしね。」「それもあるんだけど、僕の実家ってね。」正人さんが話したのはご自身の家族の事。母親は料理が壊滅的に駄目だった。父親も料理、食事に頓着しないから、外食やテイクアウト、冷凍食品や惣菜が当たり前。しかも自分が食べたい物しか食べないから栄養は偏る。ひょろひょろで顔色の悪い肌の荒れた小学生だったのだと言う。「共働きだったから金銭面で不安はなかったんだけど、子供の体調不良に全く気がつかない両親に危機感を持ってね。祖父母の家に逃げたんだ。」「ご自身で作らなかったんで?」「作り方どころか道具もなかったなー。酷いよね。」中学からは祖父母宅から通い、食事も改善されたのだが「おばあちゃんが張り切っちゃって。」若い子なら洋食や、中華でしょ?と、自分達の和食とは別メニューで作ってくれたのだと。「優しいお祖母さんっすね。」「じいちゃんも釣りが好きで、釣ったばかりの魚を捌いて刺身にしてくれたり。」旨かったんだよなぁ。と、懐かしんでいる。「じゃあ、この夏帰らなくて良かったんすか?」シメジをご飯に乗せてから口に入れる。「うーん、二人とも既に鬼籍にはいっちゃったし、両親は今もバリバリ働いてて帰っても一人なんだよね。」ピーマンと豚の炒め物にソースを滴しながら「墓参りは行ったんだけどさ。」と言ったところで、「(こう)君はお母さんの墓参り、行ったの?」と、聞かれた。は、か、ま、い、り。頭の中で、一語ずつ並べられた言葉を、じっくり反芻する。「あれ?(こう)君?」固まった自分に正人さんが不安な顔で覗きこんでくる。手に箸と茶碗は持ったまま。「…そういやぁ、知りませんね。」「え、何が?」「母親の墓。」「?…の、あるお寺の名前とか?」「いえ、墓そのものです。行った事ないですね。」「え、そうなの?仏壇は?」「置いてなかったっすね。」「え…亡くなったって聞いてたんだけど。」「ええ、そう聞いてます。」入居時に『母親が亡くなって父親が再婚の為、家を出た。』と、しっかり説明している。自分も、お手伝いのみつ子さんからそう聞いてるし。父親も「んー、お母さんは、お空の向こうだからね。」なんて言ってたが。「まぁ、各ご家庭で違うんだろうねぇ。」正人さんは?を浮かべたまま、話しを終わらせた。


早朝、いつも通りのコンビニで届いた商品を棚に並べていた時だ。「あのー…。」「はい、いらっしゃいませ。」背後から声をかけられ、しゃがんだまま振り向くと若い女性が立っていた。「はい、何をお探しで?」と、聞くと何やらもじもじしている。立ち上ってみると、だいぶ小柄な女性だ。自分と頭一つ違う。「あー、お手洗いならどうぞ。お使い下さい。」「いや、あの…。」と、要領を得ない。レジから、「お客様、どうされました?」と、オーナー夫人が声をかけると、女性は慌ててレジ横の陳列棚からホットドリンクとおにぎりをとり、カウンターに置いて精算すると逃げるように店を出て行った。「なに、(ゆき)ちゃん、知ってる人?」「いや、思い当たる節がないっす。」「若い()だったよね。」「んー「ぷいぷい」の周りの店の子かなぁ。」「“呑んたろ横丁”の店の子にしては(うぶ)だわよ。」「っすよねー。」みっちゃんの店「スナックぷいぷい」がある飲み屋がお互いを支えて建っている袋小路は“呑んたろ横丁”と呼ばれ、立ち飲みの焼き鳥屋、美人(?)揃いのbar、カラオケ喫茶兼スナックと、空き店舗も含め対面して10店舗並んでいる。だから、店の若い従業員ならすれ違ったり店先で会ったら挨拶や軽いおしゃべりもするのだが、今の女性とは面識がない気がする。「(ゆき)ちゃん、それ並べ終わったらドリンク補充お願い出来る?」と仕事を振られたので、直ぐに女性の事は忘れた。


「あ。」忘れていた。弁当箱を通学カバンに入れる為開いたカバンの中のノートの間から、あの手紙が出てきた。昨日、すっかり忘れてた。「あ、あの手紙か。」幽霊が目ざとく見つける。まぁ、時間的にギリギリでもないし、中身を確認する位なら。と、ハサミで端を切る。中の便箋を用心深く取り出し広げる。よし、危険物は入ってなさそうだ。「何かな何かな♪」幽霊は肩越しに覗きこんでくる。顔がひっつくが煙のようなもので、体温もないためひっつくというより顔から顔が生えてるみたいだ。気持ち悪い見た目である。

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