目まぐるしい話 落とし穴にご注意
自分の成績は、心配のない範囲をキープしている。といっても平均点より少し上って話しだが。少しの時間でも予習復習に使ったのは、もちろん将来一人で生きていく為。幸い、「ぷいぷい」のじんさんが大学時代にしていた家庭教師の経験から、テストが近いと勉強内容を教えて下さったり、常連客で“孫が去年使っていた”(孫はこの春に卒業し、家業の畑を手伝っているとの事)全く手垢のついていない真っ白な参考書をくれたりと周りが助けてくれたのだ。なので、「え…。リンダ、マジか。」な、一学期のテスト結果を前に、震えた。
「あんた達…。」顔色を失っている朋ちゃんは部活顧問に頼んで、放課後にテスト勉強会の時間を取った。夏休み中の大会でそれぞれ納得の成績を残せた事もあり、“学生の本分の学業が今は優先”と、中間テストまでの1ヶ月朝練のみにしてくれたのだと。「なんで入学できたんだ?」朋ちゃんは三人の傷に塩を塗り、「運動する為に脳ミソまで消化してしまったのか、君たち。」さらにコショーまで振りかけた。
「と、とりあえず今回の範囲を確認しよう。」「まだ、テスト範囲、発表されてないじゃん。」岸田がにやけ笑いしながら揚げ足を取る。「あんた、ほんとバカね。」「はっ?何でだよ「教科書をみて、だいたい此処まで進むって予測できるでしょ?わからないなら先輩達に過去問貰うとか手はいくらでもあるの。」朋ちゃんは、調理に入った。「てか、一学期中間なんてほぼ中学での復習と、少ない範囲じゃん。だから平均点が高いんだよ。なのに、早速赤点て…。」素晴らしい包丁さばきだ。「教科書の基本問題を解いていってみよう。」「私、英単語、コピーしてくる。ついでに残ったプリント問題あったら貰ってくる。」数学の二学期最初の範囲は、夏休み前に習った部分が出る。三人に教科書の同じ問題を解かせていく。が、「うっ、まさか…。解らんのか。」三人とも10問のうち最初の①から頭を抱えだした。…先生って大変な仕事だ。
「あっはっはっは。それはなかなか手強いわねー。」じんさんは、笑い過ぎて口紅が歪んでしまった。「人に教えてるのって難しいわよね。」たくやさんは野菜を切りながら話しを聞いてくれている。テーブルを拭きながら今日の事を話した。「自分のテスト勉強もあるし、バイトもあるっすから長時間みっちりする訳にいかなくて。」流しでダスターを洗い消毒に浸ける。「けど、どうせなら文化祭楽しまなきゃ。清掃も大事な仕事だけど。わたし、憧れてた先輩がいてね、きっかけは文化祭のバンドだったなー。」たくやさんが珍しく過去を話す。自分は鍋つかみを手に、熱々のカボチャを電子レンジから出す。耐熱ボウルにカットしたカボチャを入れ、レンジで柔らかくしたのだ。「じゃ、塩コショウして軽く潰して…。次に水切りしたヨーグルトを少し、マヨネーズを入れて。スライスアーモンド、キュウリも絞って入れて。」たくやさんの指示で調理を進める。今日のお通しだ。カボチャもキュウリも、ゆり子さんのお土産。大量のオクラや茄子は下処理して冷凍し、キュウリも漬物にしたりとたくやさんの料理の知識は幅広い。「楽しいのよ、実験みたいで。新しい発見があるじゃない。」以前そんな事を言っていた。「さて、わたしの準備はOKよ。たくやは?」じんさんが、イヤリングをつけつつカウンター内のキッチンに入ってきた。「これだけお願い。」「りょーかい。」バトンタッチしてたくやさんは二階に着替えに行く。たくやさんから任された煮物の味を確かめたじんさんが、「よし。」と言って火を止めたタイミングで「そろそろ終わります。」時間も頃合いだ。タイムカードを押し、二階へ。フェイクピアスやシークレットブーツを片付けていると「あ、ごめん、幸君、チャック上げてくれる?」背中の真ん中で止まったチャックをこちらに向けて、たくやさんが頼んできた。「いっすよ。」チャックを持って上まで上げる。かきあげた後ろ髪からこぼれた、ほつれ髪をチャックがかまない様に押さえる。「あっ。」「すんません。痛かったすか?」「ううん、大丈夫。」「はい、出来たっすよ。」たくやさんは、みっちゃんやじんさんに比べて、線が細いので女性用の服でも入ってしまう。ラインがキレイなワンピーススーツはたくやさんのお気に入りだ。
帰り道、日がだいぶ短くなった。
自転車が、もう一つのバイト先であるコンビニの近くにさしかかった時だ。店の前向きを谷さんがホウキで掃いている。「げっ。」気付かない振りをするかしないかの前に向こうが気付きやがった。「あー、杉本。お前ぇ。」「な、なんすか。」「忘れてないだろうなぁ。」「なにがっすか?自分忙しいんで、失礼しまっす!」「あっ!LINEするからなぁ!」慌て自転車を立ち漕ぎする後ろから、谷さんの声が聞こえる。うぅ、止めてくれ。




