短い夏休み
今の時節は冬なのに、夏の話しを書く矛盾。
数日の後、バイトの合間に朋ちゃんとリンダと図書館に、夏休みの課題を片付けに来ていた。夏休みという事で通常は激混みだが、三人とも朝が早い為、開館直後に滑り込み難なく席を確保した。クーラーの効いた静かな一角で、三文の得だ。「こないだの似顔絵、結局何だったん?」朋ちゃんが、数学の問題を解きながら聞いてきた。「あ、ごめん、ちゃんと話して無かった。一応、誰か解ったよ。」「解決したなら良かった♪」「あの似顔絵って、自転車にジュースかけてた大学生がらみ?」リンダが宿題を諦めて話しかけてきた。「んー。まぁそうなんだけど。大学生のお兄さん達は、とばっちりを受けた感じかなぁ。」ちょっとだけフィクションを入れて説明すると、『自転車を借りた人(本当は自分)のバイト先(スナック「ぷいぷい」)で働くイケメン店員に横恋慕した女の子(商業高2年の女生徒)が、イケメン店員に女の影がある気がして、内情を知りたくて自転車を借りた人に情報を聞こうと追いかけた結果、ストーカーと勘違いし、逃げた所を大学生達が目撃した。クーラー』と、まとめられた。「はあー、恋する女って、怖ぇ。」天井を仰ぎながらこぼれ落ちたリンダの呟きは、以前も女の狂気をみてるからか言葉の切実さが違う。そんなリンダに朋ちゃんは、「けど、女を狂わせるのは男なのよ。忘れちゃいけない。」どーんっと指差しをして決めた。なかなかに核心をついた言葉にリンダと二人、指先で小さな拍手を送った。
「そういや川田は、バイト順調?」「単純作業だからね。あーし…私の仕事は流れてくる石鹸を箱に詰める。頭、つかわなーい♪」「なに、注意されたの?」「何が?」「こないだから“私”って意識して言ってるじゃん。」「気づいた?バイトの面接の時にちょっと。」「俺達もまだ先とは言え進学、就職の時に面接あるもんな。」「“自分”の呼び方も直さないといかんか。」「いやー、“自分”はまだ大丈夫じゃね?」「昔の映画とか、兵隊さんが“自分~であります。”て、言うもんね。」「日本語の難しい所だな。英語なら“I”だけだし。」眉間にシワを寄せたリンダが英語のプリントとにらめっこしている。「もー、数学飽きたー。」朋ちゃんが、ダウンした。時間は11時過ぎ。約二時間頑張った。自分も、五教科それぞれの課題が僅かに残る。「俺も頑張った。明日の補習分のプリントは終わらした。」「いや、本来の課題は?」自分の問いかけは無視し、こんな時だけ、息の合った二人は片付けが早い。早々に図書館から離脱。やれやれ。残った自分は椅子を片付け、机の上のケシカスを集めゴミ箱に。カバンを持って、図書館出入口へ向かう途中、人とぶつかった。「あ、すみません。」「いえ、ごめんなさい。」相手は近くの、同じく勉強をしていた学生グループの机に、軽く手を振って向かっていった。外に出て、この温度差に辟易する。吸う息が熱い。スマホのLINEを開くと、『ミスドなう』と、ドーナツを食わずに汁ソバを啜るリンダが添付されていた。
昼過ぎ、自室に戻る。いつもの流れ通り、ウィッグを外し服を脱ぎシャワーを浴びる。今回は、エアコンのタイマー機能で、帰宅時には涼しくなっているから快適である。節約する身としては悩む所だが。きちんと下着とシャツ、今日はグレーのサーフパンツを履いて、部屋に戻る。「おーい、着替えたぞー。」小さな声で呼びかけると、床下からぬうっと幽霊が現れた。「ほんまに。ちと、恥じらい持ちや?僕やから良かったものの、他の男なら襲われてんで?」最近、同じ意味する小言を言葉を変えて聞かされる。いや、さすがにそんときゃ気をつけるさ。けど、未だに自分が女と気づいていない男性がいるのも事実。厄介な話しだ。「自室なんだから、素っ裸だろうとパンツ一丁だろうと文句言われたくないよ。今までだって、あんた、ノックして入った事ねぇじゃん。」幽霊がノックって。ポルタ~ガイストじゃん。




