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ちょっと先に進んだ話 はみ出し者が集うアパート

ちゃぶ台の上には、たっくん用の子供茶碗と箸、コップが乗ったまま。食べて寝てしまったらしい。「“ゆり子さん”、先に洗濯、回しちゃうんで。」袋を担ぎ、他の店子の部屋には無い、“隣の部屋”へ向かう。みっちゃんのベッドと、壁一面にかかった沢山の服、その横に事務所等によくあるグレーの鉄扉。その扉の内鍵を開けて、向こうへ出ると狭いバックヤードともうひとつ同じ扉。その扉の横に目線の高さで100均のペン立てが打ち付けられていて、中にコインランドリーのプリペイドカードが入っている。それを持つともうひとつの扉を同じ内鍵を開けて出る。明るいLEDの下。コインランドリーの店内には現在客は居ないようだ。設置された業務用洗濯機の中にも、何もない。駐車場に面した大きなショーウィンドウにはブラインドが下ろされている。とりあえず、一番手前の洗濯機に袋の中身をぶちまけていく。そして、住居者特典のプリペイドカードを通すと、ゴウンゴウンと動き出した。

客用に置かれた椅子に、のっそり腰かけた。壁の時計は夜9時30分。この後の事も考えると再び寝れるのは10時過ぎか。

あぁ、2時間も睡眠時間を削られる。長いため息が出る。つかの間の休息。間髪入れずに「おい、ため息ついたら幸せ逃げるで?」うるせぇよ。と、腹の中で毒づいて、先ほど入って来た扉(上部にスタッフオンリーのプレートが貼ってある)から、逆再生で戻っていく。

畳の部屋に戻ると、ゆり子さんとたっくんは変わらずそこにいた。手早く食器を流しにやり、ちゃぶ台を拭いた後、端に寄せ、押し入れから客用布団を出して敷く。そこに、ゆり子さんの膝からたっくんを移動させ(一番神経を使い、腰に負担がくる)終わりとした。ゆり子さんが、食器を洗いながらお茶を勧めてくれたが、一分一秒布団に入りたいので断った。たっくんの部屋の鍵は心配ないとの事。まぁ、自分の部屋も鍵をかける暇もなかった。幸い、盗られるものはないが。「俺、中から鍵したで。」外に出ると幽霊が得意気に言ってきた。「…あぁ、ありがと」「俺、気のきく男やからな!」フォローもバッチしや!一人喋る幽霊を無視し、部屋に戻る。建物の古さに対し、違和感のあるカードキー。貴重品は常に身に付けている為、パスケースを近づけドアを開け入る。内鍵を閉め、倒れる様にベッドへ入るなり寝息を立てる。「ほんま、こればかりは真似出来ひんわ。」幽霊が部屋の真ん中をふわふわ浮きながらつぶやいた。

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