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学生だけの特権 なぜ、映画の舞台に夏休みが使われるのか。

狼狽とはこの事か。ちょっと周りを見回し、冷や冷やした。聞こえていないか。慌てて誰かが来やしないか。

幽霊が声を上げて、泣いた。肩を震わして。顔を覆った手から涙が零れて、宙で消えた。

お、おい、大丈夫か、ごめん。そんなにきつい事聞かしちゃったんだな。ごめん。 

近寄りたかったけど、自転車を全力で漕いだからか、椅子から立ち上がれない。

おろおろしてたら、「大丈夫?怖かったわね。」とオーナー夫人が、タオルにペットボトルのスポドリ、氷の入ったビニール袋を持ってきてくれた。「あ、ありがとうございます。すんません、突然。」「何言ってんの!危ない時は大人を頼って当然でしょっ!」ほら、汗拭いて、水分補給して。と、てきぱき世話をやいてくれた。幽霊は、いつの間にか居ない。タオルでビニール袋に入ったままの氷を包み、首の後ろを冷やしてくれる。「で、何?男に追われたって?」氷を押さえたまま、隣に座ったオーナー夫人に「ぷいぷい」でドアドンからの経緯を説明した。「えぇっ、そんな奴が店の周りに居たなんて!」「自分も“まさか”と思ってました。」例え、自分に何かしら不快感を持っていたとして、「おいっ!」とか、「てめえっ!」とか、声をかけるでなく、無言の怒り?憎しみ?の表情で追いかけてくる(さま)は、言葉で言い表せない恐怖だった。「私からみっちゃんに“うちに居てる”って連絡だけ入れておくね。」迎えに来てもらいなさい。と、夫人は汗で濡れたタオルと水の入ったビニール袋を持ってご自宅へと戻っていった。「はぁーー。」再度息をはいた。少し回復した。安堵のため息だ。人の来る音がしてドキリとしたが、「杉本?」と声をかけられて、ほっとした。「なんすか、谷さん。」バイトの先輩の谷さん。電車で一時間先の“都会(まち)”の大学に通うお兄さんだ。何となく、“田舎から出て垢抜け頑張ってます”感が漂う良い先輩だ。「あ、やっぱり杉本か。いつもと見た目違うから。」おっと、今日は急いで帰る為にメイクは落としてなかった。汗でいくらか流れたとはいえ、日頃の素っぴんより違って見えるだろう。

「たまには、自分もメイクしますよぉ。現役女子高生っすよ。」「けど、なんか“女の子のメイク”じゃなくない?カッコいいって言うかさ。パンクとかロックとか?」そんな設定なんで♪なんて説明出来ない。ははっ…と、笑って誤魔化したら、しばらくじぃっと見ていた先輩が「よし、お前、いつ暇?」はぁ?「飯、おごってやるよ。」…嫌な予感。「何だよ?」「いや、そっちこそ何なんすか。今までそんな飯食いに行く程、交流してないっすよね。」にたぁっと谷さんは、悪い顔で笑って自分に耳打ちしてきた。「合コンのメンバーで来てくれよ。男側で。」はぁーーっ?「嫌っすよ!」「頼む!お前なら女の子取られる心配ないじゃん!お前の分の支払いは俺が持つから。」ライバルは一人でも減らしたいんだよぉ。拝まれても無理だ。「自分、夜は出歩けないっすよ。早朝入ってるし。昼間もバイトっす。」「日曜、休みだろ?昼間、映画館か遊園地でグループで遊びに行く話が出てんだよ。健全な異性交流だから!」こいつ、自分の休み、把握してやがる。いざって時に代わりに入って貰う魂胆だったな。“良い先輩”から“駄目な先輩”に格下げだ。困ってたら店内から、「谷くん、レジお願い!」と店長の声が。「じゃ、決まったらLINEすっから。」と、飛んで戻っていった。マジかぁ…。

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