学生だけの特権 幽霊も学生だった
市営プールには子供達の声が溢れていた。水音や監視員のホイッスル。母親の子供を呼ぶ声。山手の蝉時雨に引けをとらない賑やかさだった。幽霊は、それらを俯瞰して眺めていた。「ええなぁ、涼しそ。」もう、何年も感じていない暑さ寒さは、季節の移ろいを感じなくなる。何年過ぎたか解らなくなる一つの要因だ。幸に思われた事は、死んで無くなったはずの自分の胸に突き刺さった。「うかつやったなぁ。」がしがしと頭をかく。知り会って、たった数ヶ月。死んで初めて、生きていた時の様に目を見て会話し、触れる事が出来た。身体に入って、旨いモンの味を思い出す事も出来た(食べ過ぎるので以後、禁止となったが)。憑いていく事で学校より広い範囲を移動できる様になった。舞い上がってたんや。
俺、あいつの事、何にも知らへん、。
なんで一人暮らしなのか、バイトに勉強に精を出すにしても、少し異常やった。必要以上に人との関わりを持たへんし。まぁ、周りは放っといていないけど。会話の節々にちらっと理由は話すけど、詳しくは解らん。そんな中で、どうしようもない頼み事をして、偉そうに注意した。俺が生きてた時だって、そんな注意受けたら、きっと「うるさいわい!」と、ケンカになっとる。
はぁーーと長いため息が出た。と、幸が自転車を押して歩いている姿が目に入った。ちょっと終わるん早いんちゃうか?姿が見つからないように近づき、プールと道を挟んだ反対側の店の時計をみる為に幸のななめ後方を向いた。「!!?っ」男が居た。200m程後方の鉄柱と店の看板に隠れていたが、明らかにこちらを、幸を見ていた。歳は若い様だが、その顔は歪んで黒ずんでぼやけて見える。あかん、あれは何か取り憑いとる。血の気が引いた。幽霊なのに。あれはほんま、ヤバい。「おい、幸っ!」声をかけて、幸が振り向くと同時に男が走ってきた。「逃げぇっ!」幸は自転車に飛び乗った。が、男の手が後部の荷台に届きそうになった。「させへんでぇっ!」と、とっさに男の腰のベルトを引っ張った。今まで触れられなかった物が触れられる事に触ってから気付き驚いた。ガクンと体勢を崩した男は捨て置いて、全力でチャリを漕ぐ幸の後を追った。
帽子をかぶっていても暑さで脳が煮えそうだ。いいなぁ。プール。さすがに水着を着れば、正人さんも勘違いに気付くだろうか。最近、ここあさんがニヤニヤして鬱陶しいんだよな。恋愛リアリティーショーを求めてるみたいだけど、絶ー対あり得ない。なんて、考えていた時だ。いきなり「おい、幸っ!」と、声がした。そちらを向くと、「逃げぇっ!」と必死の顔の幽霊と、その後ろからヤバい形相の男が走ってきていた。直ぐ様自転車を蹴りながら飛び乗った。前方を大学生のお兄さん複数人がプールに向かって歩いて来ていた。「うわっ。」「すみませんっ!」「あぶねっ!」なんとかぶつからずにすり抜け、アパート近くのコンビニへ避難した。「あれ、ゆきちゃん?今日はこっちじゃないだろ?」オーナーがレジから声をかけてきた。そう、バイト先のコンビニである。息を整えながら「今、変な、男に、追われて。」と伝える。「えぇっ?!」かっぷくのいいオーナーはカウンターから出るのも一苦労で息を詰めて、腹を凹ませてからカウンター扉を通ってお腹を揺らしながら外を確認した後、「ちょっと解んないけど、裏で休憩していきな。汗だくだし、顔色悪いよ。」レジをバイトの先輩に任せて、バックヤードに付き添ってくれた。休憩用椅子に座らせてもらい、「嫁さんにアイスノンとお茶、持ってきて貰うよ。」と、コンビニ裏のご自宅へ。はぁーっと息を吐く事が出来た。ずっと力が入って息が詰まっていた。幽霊がゆっくり入ってきた。もちろん、壁や扉をすり抜けて。「大丈夫やったか?怪我せんかったか?」と、保護者みたいに聞いてきた。
…ごめん、ありがとう…。素直に思う事が出来た。幽霊は、ぽかんとしていたが、いきなり両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。




