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新生活の話 人それぞれの“理由”

何故、正人さんは自分の事を“こう君”と呼ぶのか。答えは簡単。“男の子”だと思っているから。背は165cmと男性としては低めだが、ヒョロガリの短髪、一重に一文字の眉。声も女性にしては低く少し掠れ気味で、15、6歳の男の子の中にいても違和感が働かない程度に仕上がっている。幼なじみはこの見た目を面白がり、年子の弟の服を着せ、男装メイクを施し、その弟も含め三人でよく街に遊びに出掛けていた。

「ぷいぷい」で働く時に男装する様になったのはみっちゃんの指示だ。帰り際に女子高生の格好だと危険だし、少し早目に来た客に尻を撫でられる様な事が起きたらたまったもんじゃない。と、みっちゃんは自分の事の様に心配して言っていたが。みっちゃんの尻…と思ったやさきに、「あはは、みっちゃんの尻なら誰も撫でないわよ!」「胡桃だって割れそうな固い尻よねぇ。」と、オネェさん方は大笑いだ。この後のみっちゃんの怒号はさておき、こういった経緯で中学時代よりさらにパワーアップした男装(たくやさん、じんさん監修)が出来上がった。設定までしっかり作り込み、“杉本 (こう) 21歳 フリーター 彼女は特定の女性がいないタイプ”とまで決まった。そうして、男装したまま帰り、自転車を置きに駐輪場に向かうと、二人乗り仕様になった大型バイク(詳しい車種は解らない)から、サラリーマンが降りている所だった。サラリーマンは、こちらに気づくとフルフェイスを被ったまま近づいてきた。何か、しでかしたかしらん。と、身構えていたが「やぁ、新しく来た子だよね。」と、明るい声でしゃべりかけて来た。フルフェイスを脱ぐと爽やか笑顔の青年が現れた。「ちょっと待って。」と言いながらバイク用のグローブを外し、右手を差し出してきた。握手だ。「僕は、井戸 正人。よろしくね。」「は、はぁ。」あまりの明るさにためらいながら手を出すと力強く握手された。あイタタっ。存外にぎゅっと手を握られた痛さに、名前をいうタイミングを逃した。「嬉しいなぁ。仲間が出来て。ちょっと肩身が狭かったんだぁ。」と言われた。ん?「ほら、みっちゃんは見かけは男性だけど、心は乙女でしょ?で、他の住人も女性で。たっくんはまだ子供だし。男同士、話が出来るといいなぁ。」いや、待てまて。「じゃ、後でみっちゃん所で晩御飯、一緒に食べようねぇ。」と、自室へ行ってしまった。自転車を持ったまま、呆然と立ち尽くしてしまった。えぇ?

とりあえず、自転車を置き、みっちゃんの部屋へ直接向かう。みっちゃんは晩御飯の仕込みの為、先に帰って来ていた。

「…てな事があって、男だと思われています。」「…あらぁ。どうしましょ。」「まぁ、正人君だからねぇ。」「うーん、でもホントの事言ったら、正人君、泡吹いて倒れんじゃない?」「「有りうる。」」なんじゃそら。

正人さん以外の住人が集まって少し早い晩御飯を食べていた。「“さとる君”出て行ってから寂しそうだったもんね。」と、ここあさんがあじの開きをほぐしながら言った。「“さとる君”って1月まで居てた、あの部屋の先住さん。」私とゆり子さんは“さっちゃん”って呼んでたんだけどね。みっちゃんは湯飲みにお茶を入れて、自分の前に置いてくれた。礼を言い、一口飲む。ほどよい熱さと、爽やかな緑の香りと、ほんのりと茶葉の甘味が身体の中を満たした。「でも、いくら先住さんの“さとるさん”と仲良くても、自分と正人さんが仲良くなれるかは別の話っすよ。ましてや、自分、女っす。」

そこが問題なのだと伝えると、正にそこが問題なのだと返ってきた。「だってねぇ。」「そうなのよねぇ。」みっちゃんとゆり子さんは歯切れが悪い。?が頭に浮かんだままの自分に、ここあさんがズバリ告げたのは「正人君、若い女性アレルギーなの。」はぁ?

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