新生活の話
4月、入学式。部活動入部。5月、ゴールデンウィーク開けに、最初の中間テスト。と、忙しい“アオハル”は、世のカースト上位の人間だけだ。自分は、弁当持って校舎裏にいた。廃部となった園芸部の残骸であるベンチがあり、日当たりが程よく、絶好のボッチスポットだから。だったから。誰だよ。告ってんの。今時の子はLINEで告るってニュースでやってたぜ。私、他の女子と違うのアピールでボッチの癒し空間を奪うんじゃあねぇ。腹の中でボロクソに言って、そうっと引き返した。ばれてはいないだろう。彼らが居るだろう場所からは死角の、校舎の角を曲がる前だったし。距離もあった。はぁっとため息をつきながら、教室へと戻る途中、「なんや、ため息なんかついて。幸せ、逃げんで?」関西弁が降ってきた。「はっ?」と、周りをみるが誰もいない。気のせいか。「あれ?君、聞こえんの?」また聞こえた。え?どこだ?近くで聞こえるが姿が…、「やぁ。」斜め上に顔を上げると、男子生徒がいた。浮かんでいた。夏の学ランで。「…うっっわぁ…。」と驚嘆の声を上げたが、当の幽霊からは「え、リアクションうすっ!」の判定を貰った。
教室でボッチ飯を堂々と食らう。みっちゃんが作ってくれた。煮物はゆり子さんが担当だけど。中学では、家政婦のみつ子さんが事前におかずを作ってくれていて、自分で弁当に詰めた。残りは晩御飯のおかず。だから、蓋をあけてワクワクする事はなかったけど、まさかこの歳で経験するなんて、有難い事だ。静かに食べていたが、先ほどの幽霊がしつこく話かけてくる。「なぁ話ししようや。マジで久しぶりやねん。生きてる人と話するん。」しまったなぁ、無視しときゃよかった。「あ、無視はあかんよ。傷つくねんで、いくら幽霊でも。まぁ俺に限った話やけどな。」こいつ、考えた事が伝わってんのか。「まぁ解るで。俺に向かって思ってるやろ?だから解る。」なるほど、ではさようなら。成仏してくれ。「いや、酷っ。可愛い卵焼き食べながらは、絵面えぐいで。」みっちゃんの卵焼きには表面にハートに切り抜いたカニカマの赤い部分がついている。芸が細かい。「可愛いね、手作り?」「いや、みっちゃんの…、」言いかけて止まった。幽霊じゃなく、女性の声だ。卵焼きを誉めた生徒。「…ん?」小首を傾けた彼女は、隣の席から見てた。「えっと、ごめん。まだ名前、覚えてなくて。」「あー、だよね。私も覚えてないもん。」にかっと笑う彼女に嫌味な感じはなかった。「てか、お昼、直ぐ居なくなってたから誰かと食べてるんだと思ってた。」「いや、ボッチだから教室にいたたまれなくて。」「えー、一緒じゃん。じゃあ一緒に食べようよ。」と、椅子を移動させてきた。「あーし、川田 朋華。」「杉本 幸。」「ゆきちゃんね。え、県内組?」「ううん、A県。川田さんは?」「朋ちゃんでよろしく。あーしは、C県なんだぁ。だから知ってる人居ないからめっちゃびびってた。」「自分も。」お互い、他県から来たと言う共通点が見つかり一気に仲間意識が持てた。と、前席に座ってた大きな背中がくるりとこちらに向いた。ちょっと警戒したが、「俺も県外組だから混ぜてくれ。ボッチ、すげーさみしい…。」「仕方ないなぁ。てか鈴田君、陸上部だから同じ部活の子は?」「なんか、話が合わなくて…。ノリかな?」「あー、都会っ子のノリだからねぇ。」「俺、田舎もんだからなぁ。」「いや、認めるんかい!」すげー。“高校生”してる。って感動すら覚えた。




