現在進行の話 あれからどーなった
みっちゃんはフリフリエプロンを外しながら、「ほら、ちゃんと座って。コップ配って。」と指示を飛ばす。自分に。席に着いた住人の顔を眺めてから「はい、頂きます。」「「「頂きます。」」」豚汁を一口すすると、ほんのり甘口で生姜が香る。「正人君は?今日は遅くなるの?」ゆり子さんが、たっくんがこぼさない用に汁椀に手を添えながら尋ねた。「さっき残業ってLINEきてたわ。」シシャモを頭からむしゃむしゃ食べながら「お弁当作るから部屋の前に置いといて欲しいの。」と、こちらを見る。「…了解です。」ありがとうねー♪︎助かるー♡と、しゃべりながらも食事が進むみっちゃん。量は、我々の倍は盛っているのに。やはり、そこは男性なのだな。と、感心しながらお浸しにだし醤油を足らす。と、固定電話がなる(日頃はめったと鳴らないが緊急用につけているのだとか)。みっちゃんが慌てて立ち上がり、ご飯を飲み下しながら「…はい、シャトー高峯。管理人室です。」と、あたかも“高層マンション”な雰囲気をかもした応答に、にやけた。ゆり子さんはたっくんに、お電話の時はシーッよ。と教え、それをふんふんとうなずいて聞くたっくんは口から沢庵がはみ出している。「あぁ、“家族”って温かいなぁ。」おい。「いつでもあなたの心の古里。丸○屋の~赤味噌、白味噌、合わせ味噌~♪」止めろ。「なんやねん。定番やん。」幽霊が食卓の上を浮かびながらしゃべる。こちらが思った事が解ると言うこいつは、古いCMらしいそれを口ずさみながら部屋を漂う。珍しいな、降りてくるの。箸を止めずに、腹の中で聞く。「おん?まぁちょっと慌ただしくなりそうやからな。」と、うつ伏せで肘をつき、顎の下に手を置きながら電話で話すみっちゃんをチラ見する幽霊。その視線につられて、自分もみっちゃんを見る。「…はい。…はい。ありがとうございます。すぐに向かいたいのですが、小さい子がいますので…はい、都合つき次第参ります。…はい、よろしくお願いします。」大きな背中を小さくして、小声で話していたが、そっと受話器を置いて「…ふぅー…。」とため息を吐いた。何事か。ゆり子さんと顔を見合せた。「…どうしたの、みっちゃん。」ゆり子さんが問う。くるりと向いたみっちゃんは笑顔で、「ううん、大丈夫。さっ、早く食べなきゃ冷めちゃうわ。」と座り直すとばくばくと食べ始めた。これは…。ゆり子さんとアイコンタクトをとり、何事もなかった振りで食事を進めた。おい、幽霊。「なんや?」逆さまにあぐらをかいた奴に、(…ここあさんか?)と尋ねるとニヤリと笑った。残った味噌汁を飲み干しながら、(場所は知ってんのか?)「ひひひ、僕の情報網は広いんやで。」モチのロンや。と、得意げな幽霊は、待っている。「…ご馳走さまでした。」と、皿を重ねて流しへ。一足早く食べ終えたみっちゃんは、正人さん用にひじきご飯をラップでくるみ、大きなおにぎりを作っていた。時間は夜7時20分。皿を洗いながら(…先に、ここあさんの様子を見てきてくれ。頼む。)と、幽霊に話す。幽霊は、くるりくるりと、とんぼ返りしながら「よっしゃ。任しとき!」っと言って、消えた。みっちゃんの分の皿も洗ってタオルで手を拭きながら、みっちゃんの顔をみる。保温ジャーに豚汁を注ぐ顔は、険しい。
「さぁ、たっくん。ご馳走さま。」「ご馳走しゃま。」ゆり子さんとたっくんから皿を受け取る。「今日もゆり子ばぁばとこ、お泊まり出来るかな?」「うん。僕、お泊まり出来るよ。ご本、読んだげるよ。」「あら、嬉しいわぁ。」じゃ、今日は“峯の湯”さんでゆっくり温もろうか。と言うとキャッキャとたっくんは喜んだ。近くの古くからある銭湯らしい。
行ってきますと、二人とも部屋を出た。パンツとータオルとー、とたっくんの声が遠ざかっていくのを確認してから隣を見る。保温バックにおにぎりとジャーを入れたまま、みっちゃんは遠い所をみつめる様にしてじっと固まっていた。全ての皿を洗い終え、「大丈夫すか?」声をかけるとパチリと目を瞬きさせて「あら、ごめんなさい。聞いてなかったわ。あら、二人は?」ゆり子さんとたっくんが出かける前からか。はぁ、全く。しっかりしてくれ。




