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きっかけとなった話 あぁ 無常。

肩で風を切りながら前を歩く大家さんは、有名人なのか寂しい商店街の中でも誰かしらに声をかけられていた。まぁ、180cm以上はあるだろう身長と人目を惹く顔立ちにオネエ要素て、盛りすぎだろ。と、その様子を観察しながら距離を取りつつ付いていった。

「ここよ。」商店街を抜け、左に折れて数m。そこは飲み屋がひしめく路地裏で、その最奥に大家は立っていた。まだどこの店も開店前で、静かな路地だった。近づいてみると、店の前に置かれた電気看板(今は点いていない)には「…ぷいぷい…?」と書かれていて、つい読み上げてしまった。「あんた、バイトしながら学校行くんでしょ?なら、ここでしたらいいじゃない!」「はぁ?!」いきなり何を言っとるんだ、このオネエは。「開店準備をして欲しいのよ。人手不足でさ。別にあんたにお酌してって言ってるんじゃないの。掃除や買い出しなら、問題ないでしょ?」「いやいやいや、いきなり何言ってるんスか。」乙女のお願いみたいに両手を組んで目を潤ませて頼まれても、流石に(見た目良くても)気持ちわりぃ。ひきつる自分を「まぁまぁ、詳しい話は中で♡」と、大家のオネエは力ずくで店に押し込んだ。暗がりの店の中には人がいた。サラツヤヘアのお兄さんと黒髪ツーブロックのお兄さん。「やだ。女の子なんか連れてきて。」「みっちゃん、気でもふれたの?!」ー-ー

こうして、あっと言う間に新天地なるこの土地で、高校生活を送る為の下地を築いたのだった。

春、桜は既に散り初めていた。入学式には葉桜だろう。無事入居が済み、学校生活より先に単身生活を満喫していた。

アパートの名前は「シャトー高峯」、(高峯町にあるから、なんのひねりもない)二階の右端で、部屋の前に階段がある。部屋は全部で6戸となっているが、一階左端に68歳の“ゆり子さん”、真ん中と右端を中で繋げて大家のみっちゃんが住んでる。二階左端に会社員の正人さん、二階真ん中にここあさん、たっくん親子が入っていた。まだ、ゆり子さんにしか会って挨拶をしていないが、他の住人も悪い人はいなさそうだ。

実家は隣県だが、そうそう来れる距離ではないし、頼るのは授業料と家賃。生活費は自分で稼ぐ。これが、自分がこちらの高校に入る為の条件。逃げの算段。

クローゼットの扉に掛けた新しい制服を眺めながら、物件を探し回るきっかけになったあの日の事をぼんやり反芻した。

昨年のゴールデンウィーク開けだったか。父が「結婚しようと思うんだ。」と、へらへら顔で連れてきた女性は、笑顔の裏で悪意剥き出し。何か言う前から解った。あぁ、自分とは相容れない人種だと。

「どうもぅ、よろしくねぇ。」「…ははっ、どうも。」なんだよ、二人ともぎこちないなぁ。などと、ほざく父親は無視。夕食も済んで軽く一杯ひっかけたようだ。「あー…。自分、部屋で勉強してますんで。どうぞ、ごゆっくり。」と、引っ込んだ。まぁ、自室とリビングは離れてるし、父の部屋はその隣。音漏れの心配はない。一応、自室の鍵はかけた。酔っ払って入って来られても迷惑だ。触られたくないものを素早くまとめてトートに入れ、通帳、現金の確認。時間は遅いが、同じマンションに住む幼なじみに連絡した。「赤札」。たった2文字だが、事前に二人の間で決めていた隠語。すぐに既読がつき、「いつでも受け入れ可能。直ぐに来られたし。」と、ウサギが凛々しい顔して敬礼したスタンプが送られてきた。全く。なんだか、少し、泣けた。

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