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山に面した集落が私の生まれ育った故郷の村里だ。

と言っても、諸事情により私は村里から程なく離れた、鬱蒼とした林に近い、小屋のような家に独りで住んでいる。


夏の中旬、午前に川の近くで洗濯を終えて家に帰れば、女人の着物を着た三人組が家の前に立っていた。


私は嫌な予感がし、来た道を引き返そうと踵を返したが、草履が土に擦れる音がやけに鳴り響いてぎくりとすれば、女たちが振り向いた。


濡れたような艷やかな長髪が揺れ、日焼けの後一つない、名に恥じない白い肌の女性が振り返る。


菊理(きくり)さん!」


雪白(ゆきしろ)が両手に風呂敷に包まれた箱を携え、花のような微笑みを浮かべて私の名を呼んだ。

その両隣に護衛のように立っている女たちの表情が、たちまち冷やかなものになり私を見据えている。


ここで走って逃げてもいいのだが、持っている洗濯物より重く厄介な事情があり選択肢にはない。

堪忍した私は、やれやれとした気持ちを隠さずに雪白に近づいた。


「こんなところまでいったい何の用ですか? 体に障りますよ、雪白さん?」


私は笑顔で気遣う振りをしながら刺々しく言葉を吐いた。雪白は名主の家に嫁いだ為、村里の最奥、つまり私の家から遠い場所に立地した家に住んでいる。


わざわざ端から端まで出向いてくるなんて何かを企んでいるとしか思えない。私のあからさまな悪い態度に、雪白は気づく素振りも見せず、手に持っていた箱に視線を落とす。


「実は、餡子餅を作ったのだけれど、菊理さんにも是非食べて貰いたいって思ったの。……ほら、私たちあの日以来見えない――軋轢が出来てしまったでしょう? これを機にまた仲良く出来たら……なんて。餅ごときで何を贅沢言ってるのかしらね、私」


雪白は何が面白かったのか口元に手を当ててクスクスと笑う。私は盛大にため息をついてから、笑顔をつくった。


「ここまで足を運んでくれて申し訳ないのだけれど、ごみは要らないの。持って帰って貰ってもいいですか?」


悪びれもなく言い放てば途端に、他二人が息を呑んで、ますます私に注ぐ視線が鋭さを増す。

雪白は私の言葉に、動揺したように顔を彷徨わせた。


「あ……ご、ごめんなさいね。私、余計なことしたみたいね……」

「ちょっと! 黙って聞いてれば、雪白さんが忙しい中、折角持ってきてくれた物をゴミ呼ばわりするなんて! よくそんな酷いことが言えたわね!?」

「雪白さん、悪いことは言いわないから、こんな血も涙もない野蛮な女とは縁を切ったほうがいいわ。今後のことも考えれば尚更よ……」


よく言ってくれた。精神的負荷で体の体調が左右される状態でなければ、強く出れるので茶番に付き合ってやってもいいが、今の雪白は私と関わるべきじゃない。というか、彼女の言う通り今後一切の接触をして来ないで欲しい。面倒だから。

そんな私たちの想いなど意にも介さず、雪白は都合の良い解釈をした。


「きっと虫の居所が悪い時に来てしまったのね。……要らないものだと言われたけど……気が向いたら食べてね。ここに置いておくわ」


雪白は、家の前の積み重なった木箱の上に風呂敷きに包んだ重箱を置いた。


「それじゃあまた来るわね……」


儚げな微笑みを向けて、彼女は村へと戻った。侍らせている二人が般若のような顔を私への土産に見せてきたが、雪白が持ってきたゴミより面白い分まだ価値がある。


私は雪白たちが去っていく姿を視認してから、風呂敷を開け重箱の中身を地面に転がした。

木の枝で餡子餅を割ってみれば出てくる出てくる蟻の死骸。蟻だけならまだしも、腹でも壊すようなものが入っていれば仕事に支障を来しかねない。


雪白が庭先で蟻を集める姿を思い浮かべると、この女暇なんだなぁとしか感想を抱けなかったが、後日私が彼女から貰った餅を枝で遊んでいたという話が広がった。まさかの二段構えで、なんとも底意地が悪い作戦だと感心した。




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