hot heart story・・・005 もう一度会いたい
「なんだ・・・お前」
陽は思わず立ち止まった。その犬は団地の前の小道に静かに座っていた。雑種だろうか?毛並みは薄茶でクロとは違うが、目は似ていた。心の奥まで見通すような澄んだ目。
犬は陽の存在に気づくと、すっーと立ち上がりゆっくり近づいてきた。警戒する様子はなく、尾っぽは振らず静かにたたずんでいた。
「おまえ、クロの知り合いか?」
当然返事はない。陽は心のどこかで思った。"この犬はクロの代理なのだろうか?メッセージなのかもしれない"と・・・
陽はひざをついて、そっと手を差し出した。犬は一瞬、ためらった後、その手に鼻先を寄せた。温かいぬくもりが心を熱くさせた。クロがいなくなってから、どこかに空白があった。ふと呼びたくなる名前。陽はそっと呟く。
「もう一度クロに会いたい」
ただの願いだった。目の前の犬が顔を上げ陽の背後を見ていた。
「んっ・・・?」
振り返るけど誰もいない。風が吹いて乾いた葉っぱがひらひらと宙を舞い、陽の足元に落ちてきた。それはどこか懐かしい香りを運んできた。
クロが去ったあの日の朝と同じ匂い、『元気でな・・・』と言われているように感じた。
"大丈夫ってことかな"陽は立ち上がって茶色の犬の頭を撫でた。
この子に名前を付けよう。
「そうだ、お前は"コト"にしよう、どうだ?」当然返事などない。
犬は瞬きして、陽をじっと見た。"それ、いいね"と言うように・・・
「今度はちゃんと守るよ 最初から最後ま」」
"クロありがとう"心の中でもう一度唱えた。