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hot heart story・・・002 小さな命の灯
翌朝、クロは動く気配がない。水を差しだしても口を付けない。クロの目は陽を追いかけていた。
「ずっとここにいてもいい?」そんな問いかけが聞こえた気がした。体の奥でかすかに揺れる命の火を陽は確かに感じていた。
大学には「風を引いた」とだけ連絡した。バイト先の店長には「すみません、急用で」と頭を下げた。
冷蔵庫を見渡し、何か食べれそうなものをと考え、鶏肉をゆで、ほぐし塩をすこしふりかた。
クロの口のそばにそっと近づけた。匂いだけでも・・・・という想いを念じながら・・・
すると、クロの鼻先がかすかに動いた。陽の胸は熱くなった。
「食べないと、動けないぞ・・・」と優しく声かけた。その声に反応したように、クロは舌を出して食べ始めた。
陽はクロの様子をそばで、見守った。弱った命の回復には黙って待つしか方法がない。3日が過ぎた頃、ようやく、自分の足で立ち上がった。
陽はその様子を見て、「そうそう、よかった・・・」とクロの頭を撫でた。
クロは見上げて、陽の方をじっとみつめていた。