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hot heart story・・・001 雨としっぽ
雨が降っていた。陽は大学のレポートに追われて明け方までまとめていた。
気が付いたのは午後。
カーテンの隙間から覗く空は重く濁り、いつも道には、水たまりが広がっていた。
歩道の隅で、黒い塊が動いた。ゴミ袋に一瞬見えたが、ゆっくり近づき、そっと見ると、全身がふるえている、それは犬だった。やせ細って、毛は泥にまみれ、骨が浮き出している。陽を見上げる目は、必死に何かを訴えるシグナルを送っていた。
「どうしたんだよ、おまえ、震えていて汚れていて・・・」声をかけながら、しゃがみこんで、そっと手を伸ばす。犬に警戒する選択さえなかった。
何も考えずそっと抱きかかえ、歩き出した。
大学の課題、バイト全部キャンセルして、自宅に引き返した。ワンルームでバスタオルを何枚も重ね汚れを拭いた。犬はじっとしておとなしくしていた。
まるで「これですくわれた・・・」と言っているようなまなざしで陽をじっとみつめていた。
そして、首輪も飼い主も不明のその犬に陽は"クロ"と仮の名前をつけた。
その夜、陽は何日ぶりにぐっすりねむりについた。