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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第三章 直視できないイケメンと出会う
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第九話


***


 これから本格的な夏がやって来る第七の月に入った頃。野菜の収穫を手伝っていた美波に、再び珍しい訪問者の噂話が届いた。


 どうやら王都から騎士団がやって来たらしい。騎士団といえば、約半月ほど前にハーフェン村にやってきた騎士・リステアードを思い出す。しかしそう何度も来るほどこの村に何かあるとは考えなかった美波は、また別の騎士がやって来たのだろうと深く考えなかった。


 ――また別の騎士が来るというのは、それはそれでこの村に何かあるという意味にも取れることには気づかないまま。


「おじさーん!こっちの野菜の収穫、全部終わったよー!納屋の中に置いてくるねー!」


「おー!ありがとなー!悪いが戻ってきたらこっちも手伝ってくれ!」


 しっかり熟した野菜は重く、納屋の中に置いたところで美波は一息つく。じんわりと滲んだ汗を拭ったとき、納屋の出入口に人の気配を感じた。


「…あれ?おじさん、どうしたの?」


 納屋から戻ってきたら手伝ってほしいと、先ほどまで話していた村人。ぎこちない表情で、村の通りの方を指さして言った。


「ミナミ、村長と騎士団が迎えに来てるぞ。…お前、何かやったのか?」


 もちろん美波には何の心当たりもない。それでもなんとなく嫌な予感がしつつ村の通りへと出れば、そこには村長と並んで、騎士団の制服を着て複数の部下を引き連れたリステアードの姿があった。


「先日ぶりですね、オーツカ嬢。突然の訪問、どうかお許しください」


 リステアードの口調こそ優しく丁寧なものの、先日のお忍び感はなく、どこからどうみても正式に騎士団としてハーフェン村にやって来たという雰囲気がひしひしと伝わる。一行は村長の家へと向かい、何を言われるのかとドギマギする美波を前に、外に部下たちを待機させたリステアードは早速本題を口にした。


「改めまして、ミナミ・オーツカ嬢。私は王国第一騎士団の団長を務めるリステアード・ティーレマンと申します。そして我々第一騎士団は、王命により、貴女のお迎えに参上いたしました。速やかに王城に上がるご準備をしていただきたく存じます」


「王、命…?」


 『こんなイケメンが騎士団長だなんて、それこそライトノベルの世界じゃないか』と脳内で現実逃避を始める一方で、美波は突如として訪れた状況の変化に激しく混乱していた。


 なぜ急に国王に呼び出されたのだろうか。もしや、異世界から来たことがバレてしまったのだろうか?ということは先日にリステアードがハーフェン村を訪れたのは、自分を調査しに来ていたということなのだろうか。


 そして王都に行ったあと、一体自分はどうなってしまうのか。異世界人であることが知られてしまったとしたら、不審人物として王城に監禁される可能性だってあるかもしれない。そうなったらきっと、二度とハーフェン村には戻って来られない。


「――っ、嫌です!私は王都になんて行きません!」


 混乱する思考は、悪い未来ばかりを予想する。その恐怖のせいで、美波は軽くパニックを起こしていた。


「私はこの村から出ません!この村が好きなんです!――大体!急にぞろぞろと押し掛けて来て、王命だから王城に来いって失礼じゃない!?こっちは一般市民なんだから騎士団を名乗る集団が来るなんて怖すぎるんだけど!」


「………」


 美波の激しい拒絶ぶりにリステアードは思わず言葉を失っていたが、すぐに彼女の心境を察したらしい。


「――怖い思いをさせてしまい申し訳ありません、オーツカ嬢。私の配慮が欠けていたことを謝罪いたします」


「……あ、」


 リステアードの誠実な態度に、我に返る美波。それでも王都に呼び出され、これからどうなるのか分からないことへの恐怖は消えておらず。


「王命で参上したとお伝えしましたが、王はただ、オーツカ嬢と直接お話がされたいだけだそうです。ハーフェン村のパンの噂がお耳に届いたようで、その発案者に是非会いたいとのことでした」


「でも…」


「オーツカ嬢が村から王都まで安全に着けるよう我々第一騎士団が派遣されたのです。もちろん村にお帰りになる際も我々が護衛いたします」


「………」


 美波とて本当は王都に行きたくないわけではない。元の世界にいる家族や友人と再び会うためにも、王都の大聖堂に行く必要がある。


 とはいえ、この世界アレスリアに召喚されてからまだ三ヶ月ほどしか経っていないのだ。環境に慣れたというのはあくまでもハーフェン村での話であって、心の準備ができないまま急に外の環境に連れて行かれるのは、やはり怖いものだった。


「――ミナミ、ここはティーレマン殿を信じてみるのはどうじゃ?」


 そんな美波の背中を押すのは、村長だ。


「ミナミも何やら王都に用事があると話しておったじゃろう?王都まで向かえる馬車なんぞ村にはありゃせんし、道中には魔物が出ることもある。それならばティーレマン殿に連れて行ってもらうのが、一番確実で安全じゃ」


「…それはそうかもしれないけど…」


「国王様と直接お会いできるなど、滅多にない機会じゃ。それに万が一ミナミの意思に反するようなことが起きても大丈夫じゃ。ミナミには心強い味方がおるじゃろう?」


 村長の言葉で思い浮かんだのは、真っ白な毛並と金色の瞳を持つヨシュカの姿だった。


(たしかに村長の言う通りかも。ハーフェン村から王都に向かうとしたら、行商人が乗って来る馬車に乗せてもらうしかないし、その場合は乗り継ぎが発生する可能性もある。しかも魔物が出るかもしれないなら、なおさら騎士団に守ってもらう方が安全だよね)


 しかもライトノベルでは、馬車に乗るとお尻が痛くなるという描写が多かった。王都までは十日の旅だ。行商人の馬車より、騎士団の馬車の方が絶対乗り心地がいいに決まっている。王命で迎えに来たのだから、質素な馬車で来たということはないはずである。


「……分かりました。私、ティーレマンさんたちと王都に行きます」


 美波のその言葉にリステアードは安心したように微笑み、村長はまるで孫娘の成長を見守るかのように満足そうに頷いたのだった。


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