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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第三章 直視できないイケメンと出会う
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第八話


***


 翌日、美波はリステアードに村の中を案内していた。といっても、ハーフェンは小さな村である。早々に案内は終わり、時間を持て余した美波はリステアードと共に少々早い昼食を取ることにした。


「パン屋のカルラさんがサンドイッチを用意してくれたそうなので、近くのベンチに座っていただきましょうか」


「………」


 美波の提案に、リステアードが少し意外そうな顔を見せる。それに気づいた美波は、自分が何か失言をしたのかと焦った。


「あっ、もしかして外で食べるのって行儀が悪かったりします…?」


「いえ、そんなことはありません。騎士団の訓練などで、外で食事を取ることは多々あります。……ただ失礼ながら、昨日初めてお会いしたときからオーツカ嬢は私とは気まずそうなご様子でしたので、昼食をお誘いいただけたことが嬉しかったのです」


「っああ!すみません!決してティーレマンさんが悪いわけではないです!」


 リステアードのいう『気まずそうな様子』とはずばり、美波が彼の顔を直視できずに目を合わせられないことである。――あなたがイケメン過ぎて直視できないんです。こんなこと、本人を目の前に言えるはずもなく。


「なんというか、その…私、少し人見知りをしてしまうタイプで…」


「ああ、そうでしたか。それでは少しずつ慣れていただけるようにしますね」


(し、紳士的…!)


 好青年の鑑といっても過言ではないほどの爽やかな笑顔。そういう素敵な笑顔を見せられると余計に直視できなくなるわけだが、そんなことを本人(リステアード)は知る由もない。


 美波は平常心を装いながら村のちょっとした広場にあるベンチにリステアードを座らせ、サンドイッチを受け取りにカルラのところに向かった。


「美丈夫との逢瀬はどうだい、ミナミ?」


「逢瀬って…ただの案内ですよ。村長の手伝いです」


「ほら、この村にはミナミと年の近い男はいないだろう?だからついつい気になっちまってねえ」


 顔を合わせるなりそう揶揄(からか)ってきたカルラから、美波はサンドイッチを受け取る。自分と年の近い男はいないと言うカルラに、そういえば自分の年齢をちゃんと話したことがないなと美波は気づいた。


(本当は私が三十歳だと知ったら、カルラさんはどんな反応するんだろう?)


 ハーフェン村で美波と年の近い男は恐らく全員が既婚者であると思われる。むしろカルラが美波の実年齢を知れば、嫁に行き遅れたのだと心配して、急いで相手を見つけてくるかもしれない。


 それはそれで面倒なので、やはり自分の年齢のことはこのまま黙っておくことにした美波だった。


「ティーレマンさん、お待たせしました」


 少し距離を空けてリステアードの隣に座り、ハーフェン村ではすっかりお馴染みとなったサンドイッチ三種類を見せる。


「ああ、これがあのサンドイッチですね」


「あれ?ご存知なんですか?」


「はい。ハーフェン村ではおいしいパンが売られていて、特にこのサンドイッチは村でしか食べられない一番おいしいパンだと王都でも噂になっています」


「ええ…?そんなに噂になってるんですか、これ」


 ハーフェン村のパンが人気になっていることは、外部の人々の出入りで賑やかになった村や噂話からなんとなくは知っていた。それがまさか王都に届くほどだったとは。元の世界の知識がいかにこの世界では斬新に感じられるのか、美波はその片鱗を垣間見た気持ちになった。


(そういえば王都って、ここからどのくらい距離があるんだろう?)


 ファシエルの聖物を受け取るための大聖堂についても、今がリステアードに聞くチャンスである。そう考えた美波は、サンドイッチを一口食べてその美味しさに感動している様子のリステアードを見た。


「このサンドイッチというものは本当に美味しいですね…!中の白いソースが抜群です」


「中のソースはマヨネーズといいます。そのマヨネーズを作るのが大変なので、サンドイッチは一度にたくさん作れないんですよ」


「そうなのですね。できれば毎日でも食べたいですが、それは難しそうですね」


 食べ方は上品だが、その表情は好きなものを食べている子どものように綻んでいる。少し幼く見えるそんなリステアードの顔に、美波は人知れずときめいていた。


(そんなかわいい顔もできるのか…!イケメン、罪深い…!)


 ゲーム、アニメ、ライトノベルが好きな美波。もちろん美形も好きである。恋人は長らくいないが、二次元のキャラクター相手にときめいていた日々。二次元から飛び出してきたようなリステアードの美貌を前に、ときめかずにいられるはずもないのだ。


 ――いや、今は目の前のイケメンにときめいている場合ではない。


 はっと我に返った美波は、本来の目的ある王都の話を聞き出すことにした。


「ところでティーレマンさんは王都からいらっしゃったんですよね?」


 国王の命で視察に来て、王都での村の噂を知っているくらいだから王都の住民に間違いないはずである。美波の問いに、リステアードは頷いた。


「はい。私は王に仕える第一騎士団に所属していて、拠点は王都になります」


「あの、王都とハーフェン村ってどのくらいの距離なんでしょうか?」


「そうですね…仮にオーツカ嬢が王都に向かうとしたら、馬車でゆっくりと向かって十日ほどでしょうか。早馬で駆け抜ければ三日といったところですね」


「馬車で十日…」


 思っていたより近いな、というのが美波の印象だった。村の規模や神獣が住む森が近くにあるということから、ハーフェン村がもっと辺境にあると思っていたのだ。


 馬車で十日なら、時間はかかるものの行き来できる距離である。聖物を受け取るついでに王都を観光してきてもいいかもしれないと、美波は少し旅行気分になりつつあった。


「オーツカ嬢は王都にご興味がおありなのですか?」


「あ、はい。神様を祀っている大聖堂があると聞いて、そこに行ってみたくて」


「ああ、創造神ファシエル様を祀る聖教の大聖堂ですね」


 大聖堂と呼ばれる通り、王都では王城の次に目を引く大きな建物らしい。礼拝堂は一般公開されているため、誰でも中に入ることはできるそう。


 リステアードから王都の話を聞いたお陰で、大聖堂へ向かう計画がかなり鮮明に描けるようになった美波。その後は他愛もない話をし、今度は一人で村を回ってみるというリステアードと別れたのだった。


 その日の夜、いつものように様子を見に来たヨシュカに、美波はリステアードから聞いた王都の話を聞かせた。元の世界で海外旅行に行ったことはあるものの、どれも友だちと行ったものばかり。一人で行くのは不安だからとヨシュアを誘えば、彼は鼻で笑った。


「ファシエル様の加護がありながら、一人で王都にさえ行けぬとは。だからお主は小娘だと言うのだ」


「だからヨシュカが一緒に来てくれたら行けるんだってば」


「我のような高貴な神獣が行けば、王都中が混乱するのは目に見えておろうが」


「じゃあヨシュカが小さくなるのはどう?子犬くらいのサイズになれば、誰も神獣だと思わないんじゃないかな?」


「お主…我を犬扱いする気か…?」


 結果的にヨシュカの不興を買った美波は、王都同行の許諾を貰えないままその日を終え。


 その翌日。いつものように村の手伝いをしていた美波の元にリステアードがハーフェン村を発ったという話が耳に届いたのは、お昼を過ぎた頃のことだった。


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