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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第十五章 甘い餡子は熱烈求婚とともにやってくる

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第五十三話


「ミナミ様!こんなところでお会いできるとは運命ですね!」


 フェオドラとのお茶会帰りに、偶然にも(待ち伏せされて)、ジュノと出会って猛烈に話しかけられたり。


「ミナミはああいうのが好みなの?私の顔に見惚れていたのに浮気者だね」


 新しい魔導具開発の打ち合わせと称して、フェルディナンドに呼び出されては口説かれたり。


「もしよろしければ今日はスヴニールの帰りに少し寄り道をしませんか?ミナミ様のことを考えながら歩いていたら、お好きそうな店を見つけたんです」


 スヴニールへ護衛中のリステアードに、あからさまな好意を向けられたり。


「ミナミ様はどういうタイプが好みですか?私のタイプはミナミ様です!」


 ジュノ。


「またジュノ皇子と会っていたの?それは妬いてしまうね」


 フェルディナンド。


「ミナミ様、今日もお会いできてうれしいです」


 リステアード。


 三人それぞれから好意を向けられ続けた美波は疲弊していた。贅沢な悩みだとは理解している。理解はしているが、供給が過多なのである。これでは誰か一人のことをゆっくり考える時間などないではないか。


 さらに滞在日が限られているジュノは、美波をモノで釣る作戦に出た。


「ミナミ様!ドゥメヤの新しい食材を取り寄せました!私の宮へいらっしゃいませんか!」


(新しい日本食材…!)


 速攻で誘惑に負けそうになる美波。


(いやでもジュノ皇子が滞在する王宮に行ったと知られれば、フェルディナンドさんに何を言われるか…!いやでも、新しい日本食材が何なのかすっごく気にはなるし…!)


「きっとミナミ様に気に入ってもらえると思います!ドゥメヤでは甘くして食べるものなんです!ぜひ!」


「伺います!」


 甘いものと聞いて、美波は即答した。もちろん一人では行かず、イルメラを連れての訪問である。


 ジュノが滞在する王宮は、来客用の宮らしい。宮にはジュノとその一行しかおらず、のびのびと闊歩するジュノの様子を見る限り、かなり居心地はよさそうである。


「今回取り寄せたのはアズキビーンという豆です。ご存じですか?」


 食料庫へと案内するジュノは楽しそうである。ルオマは一番後ろで静かにしていた。


「小豆!?もしかして、赤い豆のことですか?」


「そうです!ドゥメヤでは贅沢にたっぷりの砂糖と煮て食べます!」


「最高じゃないですか!ついに和菓子が食べられる日がやってきた…!」


 小豆に大興奮する美波。その様子に、ジュノはうれしそうに満面の笑みを浮かべていた。


「ミナミ様にそんなに喜んでもらえるなんて、取り寄せた甲斐がありました!アズキビーン、ここにあります!」


 食料庫に到着すると、ルオマがその扉を開ける。そして出入口にほど近い麻袋の中に、赤く艶のある豆が入っていた。


「ふああ!小豆だあ!」


「そのご様子だと、食べ方もご存じのようですね。ミナミ様はお菓子を作ると聞きました。ぜひ私も食べてみたいです!」


「もちろんです!提供いただいたからにはぜひ!」


 小豆を持って、そのまま王宮の厨房を借りることになった。小豆といえば作るのはそう、餡子(あんこ)である。それから餡子を使って、ゆくゆくは王道のあんパンにも挑戦しようと考えていた。


(まずは脳内検索をして、っと)


 レシピの確認をする。餡子の作り方は、まず鍋に湯を沸かし、そこに小豆を入れる。再沸騰したら差し水をして、足した分の湯を捨てる。これを複数回繰り返し、煮た小豆をザルに上げて水気を切る。


 再び鍋に湯を沸かし、煮た小豆を入れて、豆が柔らかくなるまで煮る。煮あがったら小豆と煮汁に分けて、豆が煮崩れないようにかき混ぜながら砂糖と混ぜる。煮汁はさらに煮詰め、最後は小豆と混ぜ合わせる。最後に器に小豆を広げて粗熱を取れば、餡子の出来上がりだ。


「餡子の完成です!」


「おお!ドゥメヤのアズキペーストとそっくりです!」


 その場の全員で味見をしてみる。じんわりと広がる甘みとこっくりとした舌触りに、誰もがうっとりとした。


「ああ…染みる…」


 これぞ日本の甘味である。最高においしい。


「ドゥメヤの城の料理人にも勝るアズキペーストです!ミナミ様は天才ですね!すばらしいです!」


「ジュノ皇子のおっしゃる通りです。聖女様はドゥメヤ料理に詳しいのですね」


「まさに私の花嫁にぴったりだ!」


「あはは…」


***


「それで?お主はちやほやされているのを楽しんでいるというわけか?」


「それは人聞きが悪いよ、ヨシュカ!」


 翌日、自宅にて。厨房で調理の準備をしながら、美波はヨシュカにジュノのことを相談していた。ちなみに調理中にヨシュカの毛が入るといけないので、ヨシュカは厨房の窓の外からこちらを覗いている。


「ジュノ皇子がいい人なのは分かるよ?明るいし、裏表がないし、気持ちのいい人だと思う。でも結婚って言われるとなんか違うような気がするというか、こっちで結婚なんて考えてなかったというか、そもそも恋愛自体まだ頭になかったというか…」


「ほう?『まだ』、な」


「っ、揚げ足取らないで!」


 本音をいうと、フェルディナンドとリステアードを意識している。一緒にいるとドキドキするし、積極的な言動も全然嫌じゃない。対してジュノにはというと、一緒にいると楽しいとは思うがドキドキはしない。どちらかというと弟がいるような気持ちになる。


「ジュノ皇子には申し訳ないけど、これじゃあ結婚はできないなあ」


「お主の心には、もう誰かいるようだからな」


「もう!ヨシュカ!そんな意地悪言うなら、あんパンあげないんだからね!」


「なに!?神獣たる我に捧げものをせぬつもりか!?」


「意地悪ばっかり言うからよ!」


「く…っ。大体お主は最近我を放っておきすぎなのではないか?何かと理由をつけて留守番をさせるばかりか、タマゴサンドも捧げる回数が減っておるではないか!我がここにいるのはお主を見守るためだというのに、お主はそれをさも当然のようにだな――」


「あー、はいはい!今からあんパン作るから集中するね!」


 まだやいのやいのと騒ぐヨシュカを放って、美波は調理を始めることにした。今日のレシピはあんパンである。昨日作った餡子を利用するのだ。


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