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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第十四章 迷子な恋愛感情よりも開店準備で忙しい

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五十一話


***


 それからフェルディナンドとリステアードに会うことなく、第二の月に入った。グィードが大通りから一本入ったところにある小さな店舗を見つけてくれ、開店に向けて改装を行うことになった。そして人材はというと、応募してくれた数人と面談をして、その中の一人、フーゴ・エレットという男爵家の三男坊を採用した。


「聖女様と一緒に働けるなんて光栄です!」


「私は表立って働かないから、あまり大きな声で言わないようにね。それから私のことは美波って呼んでね」


「はい、ミナミ様!」


 フーゴは、貴族だからと変に擦れていない真っ直ぐな性格の青年だった。明るく、物事の飲み込みも早そうで、美波、グィード、ゲルダ、イルメラの満場一致で採用を決めた。


 今日は開店に向けて、フーゴを地球スイーツのパティシエとして教育する日だ。まずはプレーンのパウンドケーキとシフォンケーキを一緒に焼くことから始めた。


「パウンドケーキの材料は、必ず室温に戻してから使ってね」


 それぞれのケーキを作るにあたり、手本を見せながら注意すべきポイントを伝えていく。フーゴは分からなかった点や気になった点を都度尋ねては、事前に渡していたレシピにメモを取っていた。


「シフォンケーキは焼き上がったらすぐに逆さまにしてケーキを冷ますこと。こうしないと折角ふっくら膨らんだ生地が潰れちゃうから気を付けて」


「分かりました!パウンドケーキもそうですが、シフォンケーキの焼き型も特注品ですか?」


「そうなの。だから焼き型に問題が起きたらすぐに言ってね。作ってもらわないといけないから」


「はい!」


 完成系を知るのも大切だ。焼き上がったらフーゴと一緒にお茶をして、試食会を行おう。次回は彼がメインで作業し、自分がサポートに入るのがいいかなと、美波が考えていたときだった。


「ミナミ様、失礼いたします」


 イルメラが足早に美波の方へと歩み寄ってきた。


「王城から、至急の登城を願う旨の連絡が届きました」


「え?王城から?」


 しかも至急だなんて、何やら切羽詰まった様子のようだ。これは行かねばならないとフーゴの対応をグィードに任せるよう言付け、美波は急ぎ着替えてイルメラとともに馬車に飛び乗った。


 美波が提案した食品や魔導具に何か不具合でも起きたのだろうか?はたまた聖女として、何か問題でも起きたのだろうか?美波の心中は落ち着いてはいられない。


 王城に着くなり謁見の間へと案内され、美波はそこに座するベルンハルトとフェオドラに挨拶をした。


「遅くなり申し訳ありません」


「よい。こちらこそ急な呼び出しで申し訳ない」


「何かありましたか?」


「それが、ドゥメヤの使者から書簡を預かってな。その内容がオーツカ嬢に会いたいというものだったのだ」


「ドゥメヤ、ですか?」


「ああ、ここから東にある皇国の名だ」


「ああ!お米の産地ですね!」


 そういえば収穫祭の日にもその島国の名前を聞いたような気がする。


「だけどなんで私に会いたいんでしょう?面識はないはずですが…」


「王城にドゥメヤの食材を納品している商人がいるだろう?その者から、ウェインストック王家との繋がりができたのは其方のおかげだと話を聞いたそうだ。そして自国の食材を購入し、ウェインストックで広めてくれている其方に会って、正式に感謝の気持ちを伝えたいとのことだ」


「えええ?日本食が食べられて、むしろお礼が言いたいのはこちらなくらいなのに」


「ドゥメヤは島国とはいえ、立派な法治国家だ。独自の文化もある国ゆえ、これを機に外交が深まるのであればそれに越したことはない。どうだ、オーツカ嬢。ドゥメヤの者と会ってみるか?」


(うーん、王様としては会ってほしいってことよね。まあお礼を言われるくらいなら問題はないかな。私もお礼が言いたいし)


 ドゥメヤとの謁見を快諾した美波に、ベルンハルトは喜んだ。返事を最速で送ったとしても、物理的な距離的にドゥメヤの訪問があるのは一ヶ月ほど先になるらしい。一ヶ月もあればのんびりしっかりと会う準備ができるなと、美波は思ったのだった。


 そして第二の月は開店準備で忙しく過ぎ去り、第三の月の初日。ついに美波の脱ニート生活のための事業、異世界菓子店『スヴニール』がオープンした。店名は、地球のお菓子を食べた人の心に残るように、また誰かへの贈り物にも利用してもらえるようにと願いをかけて、美波が名付けた。


 王族を巻き込んで、お茶会や夜会で宣伝してもらったこともあり、お店は大盛況。開店初日は早々に商品が売り切れてしまった。


「スヴニールで働いてくれている人も、買ってくれた人もみんな笑顔になってる。お店をやってよかった!」


 ハーフェン村でパン屋を手伝っていたときのように、自分が提案したお菓子で喜んでくれる人を間近で見られる。それが何よりうれしかったし、やりがいを感じた。魔導具の発案もしたけれど、こうして直接利用者の顔が見られることで、美波はアレスリアに来て初めて何かを成し遂げた気持ちになったのだった。


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