第三十四話
収穫祭のランタンに淡く照らされ、優しく微笑みながらこちらに手を伸ばすイケメン。リステアードのかっこよさに当てられて顔を熱くなる。それを誤魔化すように俯きながら手を伸ばした美波は、袖を掴むはずが結局手をつなぐことになってしまったことには気づかぬまま、リステアードの手を取ったのだった。
それから二人で音楽家の演奏を聴いたり、小休止に露店の品を食べたりと、収穫祭を楽しんだ。そして広場から少し離れた場所で、ついに美波は見つけるのである。
「――うん?あれって…」
「ミナミ様?」
つないだリステアードの手を引っ張るように歩き出した美波。その向かう先の露店には麻袋が積まれており、その中から白いものが見えていた。
「いらっしゃい、お嬢さん!ここには珍しいドゥメヤの食材があるよ!」
「ドゥメヤ?」
「ここから東にある島国ですね」
(それってもはや日本じゃ…!?)
リステアードの説明に期待が高まる美波。そして目をつけていた麻袋の中身は、やはり白米だった。
「お、お米だーーー!!!」
美波の突然の大声に驚くリステアードと店主。しかしこれを商機と感じた店主は、すぐさま美波に商売用の笑みを向けた。
「お!お嬢さんお目が高い!これはドゥメヤの主食のライスでな。水で炊いて食べると、もっちりとしてほんのり甘いんだぞ」
「ティーレマンさん!これ、買って帰ってもいいですか!?」
「け、検品してからにはなりますが、持ち帰ることは可能です」
「やった!おじさん、このライス、一袋お願いします!」
「まいどありぃ!」
なぜドゥメヤの食材で、ここまで美波のテンションが上がるのか。その答えを知らないせいで、リステアードは美波のテンションの高さにやや押され気味であった。
「もしかしておじさん、他にドゥメヤの食材を売ったりしてますか!?」
「もちろんだとも!ドゥメヤから直接仕入れてるから、要望があれば売ることも可能だ!」
「わああ!おじさん最高です!」
日本食で使える食材を見つけた美波と、商機を逃がさまいとする店主の熱量は上がるばかり。後日談ではあるが、王城での厳正なる審査を受けた結果、この店主は王城御用達の商人となる。
そして美波は収穫祭を純粋に楽しんだことはもちろん、念願の日本食材を見つけたことで、最高の一日を過ごしたといわんばかりに上機嫌で帰城したのだった。
その翌日。早起きをした美波は、ゲルダとイルメラを連れてサブの厨房に来ていた。
「じゃーん!これは昨日、収穫祭で手に入れたお米です!」
「オコメ、ですか…?」
「あ、こっちではライスって呼んでたっけ」
収穫祭から帰ってくるやいなや、『日本食を披露するから、明日は早く起きるね』と張り切っていた美波。その言葉通り、ゲルダとイルメラを招待して、早速炊飯に取り掛かろうとしていた。
「昨日のうちに洗米と浸水させておいたお米を取り出して、っと」
冷蔵庫で寝かせておいた白米を取り出し、鍋に移す。平らにならした白米の上に手を置いて、手の甲が隠れるくらいの水を入れ、鍋に蓋をして火にかける。中火から中弱火、さらに弱火と火力を調整し、最後は火を止めて蒸らす。そして蓋を開ければ。
「白ごはんの炊きあがり!」
ツヤツヤの白米からほんのりと甘い香りが立ち上る。求めていた食材にようやく出会えたことに感激を隠せない美波は、そのまま無言で木ヘラを取り出し白米を混ぜ、一緒に塩も準備する。そうして美波が作ったのは塩おにぎりだった。
「塩おにぎりの完成です!ゲルダさん、イルメラさん、騙されたと思って食べてみて!サンドイッチみたいに手に持って、がぶっと食べるのがおすすめなの!」
「……これがあの硬そうな白い粒ですか?」
「おいしそうな匂いがしますねえ」
イルメラとゲルダがそっと塩おにぎりにかぶりつく。
「――おいしいです!」
「ほんとねえ。塩のおかげかしら。ライスがすごく甘く感じるわ」
「やった!おにぎりのおいしさは世界共通だ!」
そうして美波も塩おにぎりにかぶりつく。
「お、おいしいよお…!」
念願の日本食に涙が滲む。ゲルダたちの絶賛もあり、王城でおにぎりが普及したのは言うまでもない。




