第三十二話
互いの剣が交じり合うと、ビリビリと空気が震えた気がした。後方へ飛び下がると同時に雷を落とすリューディガーに、それを氷の盾で防ぐリステアード。次の瞬間にはリステアードが剣先で貫こうと狙いを定めるも、リューディガーはそれを剣で受け流す。そのまま踏み込んで雷魔法を放とうとするリューディガーを、リステアードが下から掻き上げるように左腕を振るうと、氷の柱が地面を駆けて身体ごと吹き飛ばした。
(危ない…っ)
身体ごと宙に舞い上がったリューディガーだったが、まるで猫のように、しなやかな動きで地面に着地したのだった。
その瞬間、団員たちから歓声が上がる。
(すごい!すごい!すごい!!もうすごいしか言えない!!)
美波もまた大興奮で、他の団員たちよりも明らかに豪快で迫力のある模擬戦にすっかり見入ってしまった。そして何より。
(ティーレマンさん、かっこよすぎて死ねる…!!!)
リステアードが戦いの最中に見せる真剣な表情、普段の落ち着きからは想像もできない力強い戦い方、太陽を受けて煌めくその氷魔法、どれも見惚れずにはいられない。
(エックホーフさんが言ってたこと、間違いじゃなかったわ…)
『思わず見惚れちゃうかも』という言葉は的確だった。戦うリステアードは最高に素敵である。
結果は一本取った形でリステアードが勝負し、騎士団の模擬戦は終了した。そして美波はイルメラに言われるまま、汗を拭くための布をリステアードに手渡した。
「おつかれさまです、ティーレマンさん。戦う姿、とてもかっこよかったです」
未だ直視はできないので、リステアードの口元に視線を向けながら美波は笑ってみせた。
「っ、ありがとうございます」
ちょうど服の袖で汗を拭おうとしていたリステアードは、美波の笑顔にドギマギしながら、緊張する手で布を受け取った。もちろんそんなリステアードの様子に美波は気づくはずもなく。
(くくっ。リステアードの顔、赤くなってやがる)
そんな二人を見て楽しんでいたのは、リューディガーだけだった。
「想像以上に魔法に迫力があってびっくりしました。私にも使えたりするんでしょうか?」
「そうですね、少し試してみますか?」
「えっ?どうやって?」
「まず手のひらをこうやってみてください」
リステアードに言われるまま、手のひらを上に向ける美波。そのまま目を閉じて身体中の魔力を手のひらに集める意識をしながら、何かひとつの属性をイメージする。
(属性といえば…パンを焼く火とか?)
火をイメージする美波だったが、手のひらには何の変化もなく。
(えっとじゃあ、キンキンに冷えた氷とか?)
何の変化もない。
(じゃあじゃあ!蛇口から出る水は!?)
何の変化もない。
「ううう、どうやら才能がないみたいです…」
魔法発動を試みるも、思いつく属性はうまくいかず。落ち込んだ様子の美波の姿がかわいらしく見えて、リステアードは思わず声に出さず笑ってしまった。
「魔法が見たくなったらいつでも私に声をかけてください。模擬戦じゃなくとも、魔法をお見せすることもできますので」
そう言って手のひらに氷の結晶を作り出したリステアード。美波は目を輝かせて結晶を見つめたあと、興奮したテンションのままリステアードの方を見た。
「わあ、綺麗!ありがとうございます、リステア―ドさ、」
二人の視線がばっちりと合う。
「………!(む、胸が!苦しい…!)」
なんだか嬉しそうに微笑むリステアードの顔に、胸きゅんどころか心臓が痛くなった美波であった。
「あの、オーツカ様」
「は、はいっ」
「不躾ですが、私も、ミナミ様とお呼びしてもよろしいですか?」
美波の様子を伺いつつも、照れを隠し切れないリステアードの表情。ともすれば大型犬のようにも見える。
「え、あ、はい、もちろんです」
「――よかった。ありがとうございます、ミナミ様」
(ぎゃー!今度はなんかかわいい!かっこいいからのかわいい!)
そんなリステアードの魅力に、美波の脳内は絶賛崩壊中なのだった。




