第三十一話
第一騎士団の訓練場は、学校のグラウンドくらいの広さがある場所だった。そこで百名ほどの騎士が訓練を行っている最中だった。
「オーツカ様!」
そんな中、すぐに美波の来訪に気づいたリステアードが駆け寄ってきた。
「本日は第一騎士団の訓練をご見学いただけるとのこと、騎士団として光栄に存じます」
「そ、そんな大げさな反応はやめてください、リステアードさん。むしろ訓練中に邪魔をしてしまってすみません」
「とんでもない!オーツカ様が見学に来てくださると団員の士気も上がります」
リステアードの中では、美波=聖女の図が完璧に出来上がっているようである。
「お、リステアード。そちらが噂の聖女様か?」
「おい!失礼だぞ」
リステアードの背後からひょこっと顔を出したのは、軽薄そうな雰囲気を纏いながらもその身のこなしに油断のない人物だった。
「初めまして、聖女様。自分はリューディガー・エックホーフ。こう見えて第一騎士団の副団長を務めてます」
にかっと人懐っこい笑顔を浮かべるリューディガー。美波も名乗り返し、聖女呼びをやめてほしいとさりげなく伝えた。
「じゃあミナミ様って呼んでもいいっすか?」
「な、馴れ馴れしいぞ!リューディガー!」
「ええっと、ご自由にどうぞ?」
「えっ!?よろしいんですかオーツカ様!?」
「やりぃ。リステアードより先に呼んでやったぜ」
「く…っ」
どうやらリステアードとリューディガーは随分と仲がよいらしい。いつも落ち着いているリステアードが、彼の前では子供っぽい反応を見せていた。
「ミナミ様、知ってます?こいつ、ミナミ様の護衛の話が上がると、団長としての権力を振りかざして必ず自分が担当するようにしてるんすよ」
「ちょ、何を…っ」
「ミナミ様がいかに素晴らしい聖女なのか、どれだけ俺が聞かされたことか」
「リューディガー!いい加減にしろ!」
一体、何を聞かせられているんだ私は。とりあえずリューディガーはチャラい。そしてお調子者である、という認識をした美波だった。そしてもうひとつ分かったことといえば、リステアードが隠れ聖女ファンであるということだろうか。
「そんなことよりオーツカ様。騎士団の訓練を見たいとおっしゃるなんて初めてではないですか?何か気になることでも?」
誤魔化すような咳払いのあと、リステアードがそう尋ねる。その視線の先には、ペアを組んで組手をしている団員たちの姿があった。
「あ、はい。実は魔法が見てみたいと思いまして」
「魔法ですか?たしかに戦闘がなければ目にすることは少ないかもしれませんね。まあ、オーツカ様の近くで戦闘がないことに越したことはないのですが」
「リステアードの魔法はすごいっすよ、ミナミ様。思わず見惚れちゃうかも」
「余計なことは言わなくていい。――魔法なら、模擬戦を見ていただくのがよろしいですね」
そう言うや否や、リステアードは団員たちに模擬戦の準備をするよう号令をかける。美波はリューディガーの案内で近くのベンチに座り、各々の戦闘準備を行う団員たちを眺めた。
(なんかもう戦う前からかっこいいんですけど。やっぱりみんな鍛えてるだけあってスタイルいいなあ。あっ、女性騎士もいるんだ!)
これから行われる模擬戦に、わくわくしている美波である。
そうして始まった模擬戦は、少々恐怖を感じるほど圧倒される光景だった。武器の交わる音、魔法が放たれる音、騎士の息遣い。そのどれもに気迫があり、美波はあっという間にその場の雰囲気にのまれてしまった。
魔法には、異世界らしくいくつかの属性があるようだ。炎の魔法を得意とする者、水の魔法を駆使する者、風の魔法を自在に操る者など、ここが異世界だということを強く思い知らされる。さらには同じ属性の中でも、武器に纏わせる者、矢として飛ばす者、身体に纏わせる者など、使い方はいろいろだった。
(騎士団、めっちゃかっこいい!!!)
そして最後はリステアードとリューディガーの、団長・副団長戦である。役職に就くくらいなのだから、相応の実力があるはずだ。美波が固唾をのんで見守る中、開始の合図とともに二人は目にも止まらぬ速さで地面を蹴った。




