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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第八章 ツンデレな神獣と一緒に行く

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第二十六話


 そして宴会はお開きとなり、リステアードを含む護衛は半分に分かれて、村長と美波の家の庭それぞれで野営をして一泊することとなり。当然のように美波の傍を離れないリステアードは、ヨシュカに会うために神域の森へと訪れた彼女を少し離れて見守っていた。


「ヨシュカー。帰ってきたよー」


「ふんっ、挨拶に来るのが遅いのではないか?」


 ぶわっと風が吹き抜けたかと思えば、目の前にヨシュカの姿が。しかし、その表情はなんだか仏頂面に見える。声音もどこか不満そうに聞こえる。


「ここに帰ってきたのなら、まずはファシエル様の御使いたる我に挨拶をしに来るのが当然ではないのか?それを夜が更けてから来おって。しかも手ぶらではないか」


「ええっと、ヨシュカ?ごめんね?」


「呼べばすぐに駆けつけられると言ったにも関わらず、お主はあの日以来ちっとも呼びはしない」


「あれ?そんな気軽に呼んでよかったの?」


「心中で呼んでも聞こえるものの、お主は少しも我を思い出さなかったではないか」


「王都に移ったばかりでバタバタしてたのと、生活に馴染むのに大変で…って、あれれ?心の中で呼んでも分かるの?」


「ファシエル様にも我を案ずるような素振りすら見せなかったそうではないか」


「――ヨシュカ、もしかして…寂しかった?」


「………」


 『何言ってんだ、こいつ?』。言葉にするならそんな目で、ヨシュカは美波を見下ろした。これはどうやら本人は無自覚で、本当のところは美波の言う通り寂しかったようである。


「遅くなってごめんね、ヨシュカ。会えてうれしい。ヨシュカがいなくて寂しかったよ」


 齢三十の大人の余裕で、美波は自分の気持ちを素直に伝えて、そっとヨシュカに抱き着いた。


「…ふんっ。我に甘えばかりだからお主は小娘だと言うのだ」


 言葉は素っ気なくとも、ヨシュカの尻尾はうれしそうに揺れていた。


「来るのが遅くなったお詫びにタマゴサンドを作ってくるね。それで許してくれる?」


「なに、タマゴサンドだと?それはいつ作るのだ?今からか?」


「さ、さすがにそれはちょっと…」


「では一体いつ作るというのだ?まさか曖昧に我の機嫌を取ろうとしただけではあるまいな?」


「あ、明日!明日、作ってくるね!」


 ここでまたヨシュカが不機嫌になっては困る。明日は少し早起きをして、ヨシュカのためにタマゴサンドを作ると決めた美波だった。


(ああ、この世界に冷蔵庫があればなあ。今夜の内に仕込んでおけるのに…)


 早起きをして、マヨネーズとタマゴフィリングを作ろう。そして頃合いを見て、カルラに食パンをもらいに行こう。


 翌朝、美波は計画通りに行動を移した。朝からおおよそ十人前のタマゴサンドを食べたヨシュカだったが、少々量が足りなかったらしい。次はもっと作るようにと念押しされた。


(オーツカ様と神獣様、微笑ましいな)


 ちなみに昨日の夜から二人のやりとりを見守っていたリステアードは、密かに二人へ親近感を感じていたのだった。


「――じゃあ、いってきます!」


 別れの時はすぐに訪れる。名残惜しさを胸にしまいながら、これまた総出で見送りに来てくれた村人たちに美波は笑顔を見せる。そして村人たちから少し離れたところには、ヨシュカの姿もあった。


「いつでも帰ってくるんじゃぞ」


「体に気を付けてね!」


 村人たちの言葉に大きく手を振りながら、馬車へと乗り込んだ美波。それを確認したリステアードも馬へとまたがり、御者や部下に出発の合図を送った。


 馬車がゆっくりと動き出す。村人たちが手を振ってくれているが、馬車に乗り込んだ美波にはもう見えない。じわりと胸に広がる寂しさを押し殺しながら、少し俯いたときだった。視界の隅で真っ白なものが映った気がした。


「――え…?」


 顔を上げてみれば、窓の外に毛並みのよい大きな白がひとつ。そして金色の瞳と目が合った。


「ヨ、ヨシュカ!?」


 美波は慌てて馬車の窓を開ける。リステアードが走行停止の指示を出そうとしたが、ヨシュカがそれを目で制する。


「どうしたの、ヨシュカ?何か忘れたことでもあった?」


「そういえば言い忘れておった」


「うん?何を?」


「我もお主と共に王都へ行く」


「へ?それって一緒にいてくれるってこと?だってヨシュカ、森を護る使命があるって…」


「ファシエル様にお主を近くで見守るように言われたのだ。決して我がお主と共にいたいからではないぞ。これも立派な我の使命なのだ」


「うそっ、すっごくうれしい!!」


 これで美波の、常時もふもふ王都ライフの確定である。


「でも森はどうするの?」


「我の眷属たちがいる。いざとなれば眷属からの知らせで我が赴くことになっている」


 風が吹くより速く駆けられるヨシュカだからこそなせる業である。そんな彼は王都への道のりを馬車に合わせて走った。常に傍にいてくれるヨシュカの存在に、携帯食でささくれ立つ美波の心は癒されたのだった。


 そして再び十日間の旅を経て、王都へと到着する。神話やおとぎ話に出てくる神獣を目の前に、王都、王城ともに大騒ぎになったことは言うまでもない。


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