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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第七章 聖物で恋しい家族と連絡を取る

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第二十三話


「それで神様。早速本題ですが、聖物はどこですか?どうやったら日本にいる人たちと話せますか?」


「折角だからもう少しあなたとお話していたいけれど…そうね。あなたには寂しい思いをさせてしまったものね」


 ファシエルが手のひらを上に向けて前に差し出すと、淡く柔らかな光を発しながらひとつの手鏡が現れる。アンティークのようなその手鏡はすっと美波の前まで動き、美波が両手を差し出せばその手のひらの上に収まった。


「それがあなたの元いた世界と連絡が取れる聖物です。その鏡を手にもって、話したい相手を思い浮かべるのです」


「魔法のアイテムみたい…!」


「ただこの場所はアレスリアや地球とは異なる概念の世界のため、その手鏡は使えません。アレスリアに戻ったら使ってみるといいでしょう」


「ありがとうございます!本当にうれしいです!」


 これで離れ離れになってしまった家族や友人たちと連絡が取れる。異世界に飛ばされたなんて話は信じてくれないかもしれないけれど、それでも何より顔を見て話がしたい。そんな思いで感激している美波の姿を、ファシエルはアレスリアに召喚したことを申し訳なく思いつつも、これで少しは彼女の寂しさが和らぐであろうことに安堵した表情を見せた。


「ミナミ。これからも、時々こうして会いに来てくれるとうれしいです」


「はい、神様」


「ありがとう、ミナミ。わたくしはいつでもあなたを見守っています。あなたの旅に幸多からんことを」


 この場所で来たときと同じように、強烈な光が視界を埋め尽くす。そうして視界が戻ったときには、美波は大聖堂の女神像の前に立っていた。その手には、聖物の手鏡を持って。


「あ、ちゃんと手鏡持って帰ってこれてた。よかったあ」


「オ、オーツカ、様…?」


「へ?」


 呼ばれた名前に顔を上げると、そこには唖然とした表情のリステアードとロルフェが美波を見つめていた。


「ええっと…?」


「せ、聖女様がご降臨された…!!」


「ええ!?なんでそうなった!?」


 ついに美波を聖女だと認めたロルフェ。その目には感激の涙が滲んでいるほどである。


「まさか聖女降臨に立ち会う日がこようとは…!これほど名誉なことはない…!!」


「え?あの?」


「ああ、創造神ファシエル様よ!この世に聖女を遣わしてくださったご恩情、心より感謝申し上げまする!」


 美波の混乱をよそに、ロルフェの感激っぷりは熱を帯びるばかり。困ったように視線をロルフェからリステアードへと移せば、我に返った彼もまた興奮を隠せずにいた。


「すごいです、オーツカ様!今、貴女は創造神ファシエル様にお会いになられていたのではありませんか?」


「そうですけど…私に何が?」


「オーツカ様がお祈りされたあとにお身体が輝き出して、しばらくその状態にいたかと思えば、一瞬眩く光り輝き、その場に立たれていらっしゃいました!」


(おおう!神様と会ってるときは、神々しいエフェクトが私にもかかっているのか!)


「しししかも聖女様!そのお持ちになっているものは、創造神様からの授かりものでは!?」


「……はい、そうですが…」


「やはり!!聖女様が創造神様より聖物を賜ったのだ!!」


 とにかく大興奮の大司教である。兎にも角にも、これで王室、聖教ともに美波を聖女認定したのである。こうして彼女はアレスリア初の異世界人であり、また聖女にもなったのだった。


 そしてずっと興奮が収まらないロルフェをなだめて、なんとか帰路へとついた美波たち。帰りの馬車の中で、美波はげっそりとした顔をしていた。


「……随分とお疲れのご様子ですね、オーツカ様」


 彼も少しは興奮してしまった身である。やや苦々しい表情で自分を気遣うリステアードに、美波はなんとか笑顔を見せた。


「本当に私は聖女ではないんですが…これはもう、聖女として腹をくくるしかないなと諦め始めたところです…」


「恐縮ながら、あれほど聖女たる光景を目にしたのです。私には貴女様が聖女ではないとは、到底信じがたいのです」


「そう思いますよねー。でも、本当に違うんです」


 苦笑しながら美波が思い出すのは、初めてアレスリアに来た日のこと。ファシエルから使命を受けたといえばそうなのだが、それは決して聖女ではないはずである。


 今日の出来事に疲れてしまったからなのか、本能的にリステアードなら信用できると思ったのか、美波はまだ王族しか知らない自分の出自を明かしてしまった。


「私、ただ神様に召喚されただけなんです」


「え?」


「こことは違う世界にある地球の日本っていうところでずっと生活してたんですけど、ある日突然、神様にこの世界に召喚されちゃって。何か重大な使命があるかと思えばそうでもなくって、ただ自由に過ごして、地球の文化をこの世界に広げてほしいって言われたんです」


「あの、オーツカ様。それはもう立派な聖女だと思うのですが…」


「だーかーらー!地球の知識では違うんですって!聖女は癒しの力を持っていたり、何か人々のためになる偉大なことを成し遂げる人のことを指すんです!」


「な、なるほど。チキューの聖女認定はかなり実力主義なんですね…」


「だから私は聖女じゃないんですけど…この世界じゃ通用しないかああああ」


 これはもう、美波が諦めるしかない状況である。


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