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異世界で文明開化のお手伝いです  作者: 秋乃 よなが
第六章 いわゆるフラグが立つ

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第十八話


 あれよあれよという間に、美波が創造神ファシエルに遣わされた聖女だという話は王城を駆け巡り。気付いたときには、美波はヨシュカと共に謁見の間にいた。


 聖女と神獣を立たせるわけにはいかないと、美波にはゆったりと座れる椅子を、ヨシュカにはサイズ的に一つでは足りないため複数のクッションが用意された。さらには二人を見下ろすわけにはいかないと、ベルンハルトとフェオドラが壇上から降りた場所に椅子を用意させる始末である。


(聖女なんかじゃないのに…!最高に居心地が悪い…!)


 今までも王城では十分に丁寧な対応をされて気が引けていたにも関わらず、王族と同等もしくはそれ以上の扱いを受けることに精神が削られていく美波。一方のヨシュカは悠然と敬われることを受け入れている。


 出会い頭の口の悪さと、意外と親しみやすい性格。美波からすればヨシュカはなんやかんやで面倒見のいい頼れる存在なのだが、この世界ではファシエルに次いで人間には手の届かない圧倒的な存在であることを、いまさらながらに実感するのである。


「オーツカ様。貴女様が創造神様によってこの世界を豊かにするため召喚されたことは分かりました。畏れ多くもお作りいただいたパンは斬新で、間違いなくこの国、ひいてはこの世界の食文化に革命を起こしたと言えます」


「か、革命は言い過ぎじゃないですかね…?あと、あの、以前のようにお話いただいても大丈夫ですというか、そのようにしてほしいというか」


 ベルンハルトに敬称つけて呼ばれるだけではなく、丁寧な言葉遣いまでされる。恐縮すぎて、美波は冷や汗が止まらない。


「――聖女様とは露知らず、今までの私の無礼をお許し願いたく存じます。」


「わたくしも心より謝罪申し上げます」


「あああああ、違う、そうじゃないんです…!そもそも聖女ではないんです…!」


「創造神様より遣わされ、こうして神獣様と共にいらっしゃるのです。そんな方を聖女と呼ばず、一体誰が聖女を名乗れましょうか」


(あああああ。話が堂々巡りで進まない…!)


「素直に自分は聖女だと認めればよいではないか、小娘よ。ファシエル様の声を聞き、使命を与えられるなど、そのような人間はお主だけだぞ?」


「「やはり聖女様だ(わ)…!」」


 王族による聖女認定が覆る気配はない。そして今の状況に明らかに困っている様子の美波を、ヨシュカは楽しんでいるように見えた。少なくとも美波の目には。


「もとより聖女様にはパンを作っていただいたあと、褒賞をお渡ししてハーフェン村に送り届けるつもりでしたが…今は状況が変わりました」


 ベルンハルトの言葉に、美波は嫌な予感しかしない。


「聖女様のご様子を見れば、ハーフェン村が過ごしやすい場所であることは理解できます。しかしあの村は王都からも遠く、万が一の際はすぐに駆けつけることが難しい。聖女様の御身を守るという意味では、ぜひこのまま王城に住居を移していただきたいと考えております」


(ほらやっぱりそういう話になる!)


「これは聖女様にご不自由をかけるという意味ではございません。ウェインストックが何かを聖女様に強いることは決してございません。聖女様は今まで通りに城でお過ごしいただければよいのです。当然、ハーフェン村に行かれることも可能です。ただ、この城を拠点とし、聖女様が創造神様の使命を果たす支援をするという名誉を、このウェインストックにお与えいただきたいのです」


(確かに王家の保護があれば今まで以上に好きなように過ごせるかもしれない。……けど違う、そうじゃないんだよなあ。その分『聖女』という役割を担うことになるわけだけど、それが重すぎるんだよなあ)


 聖女と呼ばれることや、王族に敬われること。これはもう止めてもらえる気配が一向にないので、一旦思考の外に置く。ハーフェン村を離れるのは非常に心許なく、どうしても王城に行く必要があるというのであれば、いっそ通いにしたいくらいだ。とはいえそれが現実的ではないことは理解しているし、あの携帯食もできるだけ食べたくない。ファシエルは好きなように過ごせばいいと言ってくれたが、彼女が望む『文明開化』を実行するには、王都にいる方が何かと都合がいいというのも想像がつく。


「――王都であれば、珍しい食材が手に入るかもしれんな。お主が食べたいと言っていたあの穀物、なんと言ったか」


「お米…!」


「それに王都であれば魔道具を製作する技術者の質もよかろう。タマゴサンドを保存するのによいと言っていたものも作れるかもしれぬな」


「冷蔵庫…!」


 ヨシュカの誘惑が美波の心を揺さぶる。このような発言をするということは、ヨシュカとしても美波には王都にいてほしいということではないだろうか。


(ハーフェン村が恋しくなったらいつでも戻ればいいんだよね?しばらく村に滞在したっていいんだから。私が聖女だっていうなら、誰も止めることなんてできないはず…!)


 あれほど聖女ではない、重いと思っていたにも関わらず、使える権力は使おうとする美波である。


「ヨシュカも一緒に王城にいてくれるの?」


「…我はお主が最初に降りたあの森を護らねばならぬ。あの神域を護ることが、我がファシエル様より承った使命なのだ」


「……そっか。一緒にはいられないんだね」


 せっかくハーフェン村での生活に馴染んで、温かく、まるで家族のように過ごせる人々と出会えたのに。王都に移るとなると、また一から関係性を築き上げなければならない。慣れない環境の中、また一人で頑張らなければならない。


「心配するな、小娘よ。村に来たときと同じだ。お主にはファシエル様の加護があり、我がいる。お主が呼べば今日のように、すぐに駆けつけられる」


「…うん」


 美波を慰めるようにすっと顔を寄せるヨシュカの首元に、美波はそっと抱き着く。その光景は王族、さらには謁見の間にいるウェインストック国の重鎮たちの心に美しく刻まれ、人知れず美波の聖女としての権威を強める結果となっていた。


「――私、ここに残ります」


 美波の言葉に、謁見の間の雰囲気が喜びに包まれる。


「ただ、ハーフェン村のみんなにはお世話になったので、きちんと挨拶がしたいです」


「承知いたしました。聖女様のご要望を叶えるよう、すぐに手筈を整えます」


 ベルンハルトの何の躊躇いもない承諾に一安心する美波。そしてそのあとに絶対譲れない条件として、過度に聖女扱いしないこと、特に王族は今まで通り振る舞うことを、聖女の権力を駆使して取り付けたのだった。


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