第十四話
「オーツカ嬢、紹介しよう。息子のジークフリートと、娘のオティリエだ」
「初めまして。ジークフリート・アンゼルム・ウェインストックです」
「オティリエ・アリカ・ウェインストック、です」
赤みがかった銀髪に深い緑色の瞳の王子と、まっすぐな赤茶色の髪に紫色の瞳の王女。どちらもベルンハルトとフェオドラの血を色濃く継いでいるようで、やはり顔立ちは整っている。ジークフリートもオティリエも利発そうな顔つきをしていた。
「さあ、皆が揃った。食事を始めよう」
ベルンハルトの一言で給仕が始まる。前菜やスープが運ばれてきたあと、先ほど厨房で焼き上げたばかりの食パンが見目よくカットされた状態でテーブルに運ばれてきた。
「ふむ、これが食パンというものか。随分と柔らかいな。噛まずに飲み込めてしまいそうだ」
ベルンハルトに続くように、待ってましたと言わんばかりにフェオドラも食パンを一口にちぎって口に入れる。口に入れた瞬間にはっとした表情になり、しっかりと咀嚼して飲み込んでから、彼女は美波の方を向いた。
「なんと柔らかくて美味しいパンなのでしょう…!ほんのりと甘くて食パンだけでも食べていられるのに、他のお料理と一緒に食べても合うだなんて…。これが噂のハーフェン村のパンなのね」
「ありがとうございます。王城の料理人の方々は腕がいいので、これから改良されてもっと美味しい食パンが出てくると思います」
食べられて嬉しいわと微笑むフェオドラに、美波も嬉しくなって笑みを返す。
「たしかにこれは美味しいな。私の好みとしては肉料理にはいつもの硬いパンがよいが、煮込料理にはこの柔らかいパンが合う気がする」
「ええ、父上。私もそう思います」
「私は食パンの方が好きです」
ベルンハルト、ジークフリート、オティリエにも好評らしく、美波は心の中でガッツポーズをした。そして残りの王族、フェルディナンドの様子を窺おうと美波が視線を送ると。
「―――!」
薄く微笑まれてしまった。恐らくフェルディナンドも食パンに不満はないということなのだろうが、さすがは『歩く誘惑』。その微笑みが艶っぽく、美波は無駄に動揺してしまった。
「もしかして明日はサンドイッチがいただけるのかしら?」
「はい。厨房でまた食パンを焼いて、サンドイッチを作ろうと思います」
フェオドラの期待に満ちた瞳に、美波は思わずそう答えていた。ゲルダやイルメラ、料理長たちとは何の相談もしていないが、恐らく都合はつけてもらえるだろう。
――それにしても、自分はいつまで王城に滞在させられるのだろうか?
明日の約束をしてしまった以上、今夜の宿泊が決まったも同然である。サンドイッチを作ったら解放されるのかなと、美波はあと一日二日程度の滞在だと考えていた。
その後も、王族との夕食は終始和やかに進んだ。ベルンホルトとフェオドラから王都の話を聞き、ジークフリートとオティリエからは今学んでいることや興味を持っていることの話を聞いた。ちなみにジークフリートは十六歳、オティリエは十四歳で、二人とも同じ学院に通っているそうだ。
そしてフェルディナンドはというと、ベルンホルトたちに話を振られれば答えるものの、積極的に自らの話をすることはなかった。普段からあまり話さないタイプなのか、ベルンホルトたちもそんなフェルディナンドの態度を気にしていないようである。
「あああ。緊張したあああ」
「ふふふ。おつかれさまでございました」
無事に王族との夕食を終え、部屋に戻るなり力が抜けたようにソファに寝そべる美波。そんな美波を見守りながらゲルダは就寝の準備を、イルメラは入浴の準備を整えている。
「そういえば、ゲルダさん。夕食のとき、明日サンドイッチを作ると王妃様と約束をしてしまったんですが…料理長さんたちの都合はつくでしょうか?」
「ああ、それなら問題ございませんよ。夕食に立ち会っていた侍従が、その話が出てすぐに私たちや料理長へ遣いを寄こしておりました。もう調整は着いておりまして、明日はミナミ様に朝から厨房へ行っていただき、サンドイッチは王妃様のご昼食に出す手筈になっております」
(どの人か分からないけど、侍従さんグッジョブ…!これが王城クオリティなのか…!)
「明日のミナミ様のお召し物、何色にしようかしら」
「あの、ゲルダさん…?あまり明るすぎない色でお願いしますね…?」
「ふふっ」
侍女ゲルダ。美波を着飾ることに楽しみを覚えている様子なのだった。




